509.【後日談4】魔獣都市マタタビに住みたい その1


・ある旅魔獣視点



俺は黒の毛皮に黄色の虎柄が入ったネコ科魔獣。

だいたい3mくらいの大きさだ。

魔獣国チザンの隣の人間国からはるばるやって来た。


この国は魔獣の扱いが良いらしいから、どうにか住ませて貰えないか頼み込むつもりだ。

魔獣都市マタタビが一番ネコ科魔獣の待遇が良いと聞いたから、そこを目指してテクテク歩いていたのだが。


どうやら俺は、旅先で悪い物を食べたらしく、腹を壊してしまっている。

地面にぐったりと倒れ、もう動けない。

俺の人生もここまでか。

ネコ科魔獣だから魔獣生か。


ふと何物かが近づいてくる気配を感じた。

すたっ、と巨大なネコ科魔獣が俺のそばへと着地した。



「んみゃお!(お? 行き倒れか?

おーい、生きてるかー?)」


「みにゅう(生きてるけど死にそう)」


「んみゃーうっ!(だったら背中に乗れ! 魔獣都市マタタビの医者のとこまで連れてってやるぜ!

それまで応急処置だ、【ヒール】)」



俺のしんどさが少し和らいだ。

巨大ネコ科魔獣は、回復スキルが使えるらしい。


本来ネコ科魔獣の知能は【ヒール】を習得出来るほど高くないはずなのだが。

さすが魔獣国、魔獣の水準が高い。


巨大ネコ科魔獣の上に乗っていた人間が降りてきて、俺をかついで巨大ネコ科魔獣の背中へと乗せた。

人間のくせに俺を持ち上げられるとは力持ちだな、やるな。


というか背中が馬車の荷台みたくなってる魔獣なのか。

こんな種類の魔獣も居るんだな。

世界は広いものだ。


などと意識朦朧もうろうとしながら考えていたら、例の魔獣都市マタタビに着いた。



◇ ◇ ◇ ◇



・ある旅魔獣視点



俺を運んでくれた巨大ネコ科魔獣は猫トラとかいう種類らしい。

そいつは俺をネコ科医者の居るところまで連れてきてくれた。

その後、お代はいらないぜ、と颯爽さっそうと去ってしまった。かっこいいぜ。


俺はベッドに横になっており、ネコ科医者が診てくれている。



「むー(下痢による脱水、電解質異常、栄養失調ですね。

まずは点滴から始めますね)」



変な機械(魔獣都市マタタビ製の針不使用点滴)で何かを体に注入され、しばらくすると俺の体に元気が湧いてきた。

よく効く薬だが、一体いくらかかるのだろう。

俺、あんまり交換出来る価値ある物は持ってないのだが。


だが俺の予想に反し、治療費は一切取られなかった。

どうやらこの魔獣都市マタタビは、治療は無償で行っているらしい。

すげぇ。どいつもこいつも聖人か。いや聖猫か。



◇ ◇ ◇ ◇



・ある旅魔獣視点



2日ほど入院して、治療が終わった。

病院から出た俺がお巡りさんを名乗るネコ科魔獣によって連れていかれた場所は、役所だった。

入国手続きと戸籍作成してくれるらしい。


俺の向かいには白いモコモコした普通猫サイズの魔獣が居る。



「くるにゃっ(では簡単な質問をしますので、正直に答えてくださいね)」


「みにぇー(はい)」


「くるにー(今回入国した理由は?)」


「みぉう(自国だと人間に襲われたり飢え死にしそうだったから)」


「くるなーん(なるほど、それは大変でしたね。お一人で入国したのでしょうか?)」



一人?

魔獣の数え方って匹とか体じゃないのか?

まあいいか。



「みんにゃぁ(一人だぞ)」


「んー、くるにっ(ご家族を同伴されたりはしていないようですね。分かりました。

それでは住居を手配するので、人間にお世話されたいか、自分で一人で生活したいか選んでください。

個人的には人間のお世話を推奨しますよ、ご飯の用意とトイレ掃除を勝手にやってくれますし)」


「みぁあ(一人でご飯やトイレする場合はどうするんだ?)」


「くるなっ(その場合、役所が指定する場所でご飯の配給、指定されたトイレを使用していただきます)」



なるほど、公共施設か。

俺にはそっちの方がしょうに合ってるな。



「みぅう(じゃあ一人で生活させてもらうよ)」


「くるなー(ではそのように手続きしますね)」



こうして俺は魔獣都市マタタビデビューした。




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