508.【後日談4】ピンポン猫を洗う


夜の中央広場にて。

魔獣幹部達の会合が開かれている。


明日は月に1度の、魔獣お風呂大作戦の日だ。

普段ならばいつも通りにしましょう、で話は終わりなのだが、今日はそれでは終わらない。



「んなー(議題は、ピンポン猫をどう洗うのか、ですな)」


「もちろん洗うんだねぇ?」



今まで洗う者が居ないという理由で、魔獣お風呂大作戦の対象からピンポン猫達は免除していたのだが。

そろそろ彼らの体が汚くなってきたようなので、洗ってあげようということになった。



「ガォ(でも普通サイズのネコ科魔獣用の浴槽だとおぼれてしまうぞ)」


「にゃー(小型の浴槽を準備しよう)」



俺は錬金術を使って、銅製の小型浴槽を量産した。

マシュマロサイズな彼らを洗うには、小さい浴槽でなければ溺れてしまうからな。



「うんみゅう(あとは、誰が、どうやって洗う?)」


「んなぅ(小さすぎて、人間には任せられないでしょうな)」


「アァー……」




『錬金術工房で作っているって噂の、超小型ゴーレムに任せるのはどう?』とゾンビキャットが文字を宙に描く。


「うみゅ(超小型ゴーレムはまだ実験段階。まだ実用は向かない)」


「どうするかねぇ?」



魔獣幹部達は悩みだした。

仕方ないな。解決案を提示するか。



「にゃー(ヨツバが、小型のホムンクルスを沢山持っている。

10体ほど借りればいいだろう。来月までに超小型ゴーレムは実用化出来るか?)」


「うみゅう(それならなんとかなりそう)」



というわけで、方針は決まった。



◇ ◇ ◇ ◇



翌日の早朝。極小魔獣区画に悲鳴が響き渡る。



「みーっ!(ぎゃぁぁああああ!!?)」


「オレサマ オマエ マルアライ」



ヨツバから借りた小型ホムンクルスが、せっせとピンポン猫を洗っている。

水を吸ってしぼんだ毛皮が、何とも哀愁あいしゅうただよう。



「にゃー(体を洗って、タオルで体をき終わった奴は、オヤツがあるからこっちこーい)」


「んみっ!(わーい)」


「むっ!(オヤツだー)」



ピンポン猫達は魔獣お風呂大作戦が初めてなので、嫌な思い出が残らないように、ご褒美のオヤツによって良い思い出を上書きするのだ。

俺は群がるピンポン猫達にオヤツのカリカリフードを与える。ボリボリと一所懸命に食べてる姿は可愛いなぁ。


こうして極小魔獣区画の魔獣お風呂大作戦は、つつがなく終わった。




だが、俺が与えているオヤツの噂を、普通サイズのネコ科魔獣達が耳聡みみざとく聞きつけたらしい。

中央広場で、魔獣幹部達が詰め寄られていた。



「みゃー!(ピンポン猫だけオヤツ貰ってずるいぞー!)」


「まぉー!(そうだそうだー!)」


「みゅ~(おいらにもオヤツ寄こすにゃ~)」


「にゃー(分かったから、お前らやめろ)」



そんなわけで今日を境に、魔獣お風呂大作戦の後には全員、オヤツが配られる事になったのだった。

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