480.【後日談4】映画監督ヨツバ その3


「猫さんはどう思いますか? 脚本、どんな感じにしましょうか?」



宿屋への帰り道、ヨツバは俺に話しかけてくる。



「にゃー(別に変えても、変えなくてもどっちでもいいと思うぞ)」



俺はヨツバの肩から頭へと移り、返事する。



「にゃー(死についての認識が薄いのは、この都市の死亡数が極端に低いのが原因だ。

何らかの事情で死亡数が増えれば、こっちから教えなくったって皆意識するようになるだろうさ)」


「確かにそうですけど……」


「にゃー(だいたい、死なんて科学的には生命活動の停止以上の意味を持たない。

それ以上の意味を見出そうとすればそれは宗教だ。

解釈は星の数だけ存在する。

これが絶対正しい! ってものはないと思うがな)」


「人の数だけ答えがあるということですか」


「にゃー(ヨツバは、死は乗り越えられるもの、って思っているんだろ?

スペンサー君は、死は避けられないから、後悔しないよう努めなければならない、って思っている。

俺はどっちかというとヨツバ寄りの意見だから、さっきは反論しなかった)」



言いつつヨツバの頭のプラスチック製髪留めをテシテシする。



「……何となく方向性が掴めたような気がします」


「にゃー(そうか)」



そして俺は頭から降ろされ、ポイッと投げられた。

こんなにプリチーな俺をぞんざいに扱うとは、酷いじゃないか。



◇ ◇ ◇ ◇



翌朝、ヨツバは新しい脚本を雑貨屋クローバー前に持ってきた。


さっそく店員の皆に見てもらう。

なお魔獣幹部達はお休みの時間だ。

ネコ科魔獣は夜行性だからな。



「悪くないな」



リオン君がワイン片手に脚本を読み終え、感想を述べる。

朝っぱらから酒を飲むな。



「バトルは無いのかッ!」


「ありません」


「俺が主人公なら、馬に敵討かたきうちするぞッ!」


「しません」



オリバー君にとっては物足りないらしい。


彼は小難しい事が無い、純粋なアクションバトル映画がいいのだろうな。



「どうでしょうかスペンサー君?」


「昨日のと比べ、随分とさま変わりしたようだ。

だが、この内容は……下手すれば何も伝わらないぞ?」


「私は、これを通じて考えるきっかけを与えられたらと思っています」


「そういうものか」



スペンサー君はあまり内容に納得していないらしい。



「猫さんはどうですか?」


「にゃー(いいと思うぞ。あぁ、旅立ったアイツら元気にしてるかな……)」



ネコ科魔獣の子どもが主人公のこの脚本を読み、俺が1年間世話してやった3体の子どもネコ科魔獣の事を思い出した。


アイツらには一応、ホムンクルスを尾行させているから、無事にやっているのは知ってるが。

たまには帰ってきて顔を見せてほしい。



「じゃあこの脚本で、映画を作りますよ。

さっそく都市のネコ科魔獣をスカウトしに行きますか」



スカウトのお代はロイヤル缶ニャン3ヶ月分でいいですかねぇ、とか言いながらヨツバは店の倉庫に入っていった。

おい、商品は持ち出すなよ?

ちゃんと金払えよ?

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