479.【後日談4】映画監督ヨツバ その2
暑さも和らいできて、心地良い昼寝時の宿屋にて。
ヨツバは、宿のカウンターで首輪型PCを使って、文章をタイピングしている。
俺はカウンターにひょいと飛び乗る。
「にゃー(ヨツバよ、俺は思うのだが)」
「何ですか猫さん、今脚本を書くのに忙しいんです」
「にゃー(俺達自身が映画を作る必要性はあるのか?
外注するなり、何だったら既存の映画で目当ての内容の物を探す方が早いんじゃないか?)」
「……」
ヨツバはタイピングの手を止め、こちらを向く。
「いいですか猫さん。外注するにしても、ネコ科魔獣向けの作品を、ネコ科魔獣を知らない外注先の方々が作れると思えません。
それに既存の映画って、ほとんど人間向けですよね?
人間向けの内容がそのままネコ科魔獣に通じると思いますか?」
「にゃー(いや『スパイダーニャン』めっちゃ受けてたじゃん、ネコ科魔獣に)」
「……」
言い返せなくなったヨツバは俺を睨みつける。
俺はじーっと見つめ返した。
「駄目よ猫さん、そんな所に登ったら」
そして俺は後ろからナンシーさんに持ち上げられ、床に降ろされる。
「ヨツバも、お客様が来たら、その変な魔法を仕舞ってご挨拶するのよ」
「はーい」
首輪型PCによるARキーボードは魔法じゃないのだが。
行き過ぎた科学は魔法と見分けがつかないってやつか。
俺は床にぺとりと転がり、あくびした。
今日はここで昼寝するか。
◇ ◇ ◇ ◇
昼寝中の俺を揺さぶる奴が居る。
って、もう夕方か。
「脚本が出来ましたよ猫さん!」
「にゃー(よし、データを送ってくれ。印刷する)」
ヨツバからデータを貰う。
近未来世界で買ったプリンターに接続し、印刷だ。
それにしても、6万文字も書いたのか。
素人のくせに頑張ったな。
思考加速と行動加速により、短時間で書き上げたのだろう。
30部ほど印刷出来たので、冊子に加工し、配る準備完了。
魔獣幹部達や雑貨屋クローバーの店員達に配ることにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇
雑貨屋クローバー前にて、ヨツバは脚本の冊子を配る。
「皆さん、屈託のない意見をお願いします」
しばらく皆、冊子を読む。
「……(うつら、うつら、ぺたっ)」
あっ、火車が寝落ちした。
「ガゥ(ぺろっ)」
キメラが冊子を舐めて食べてしまった。
というか彼にとっては小さすぎたか。
「うんみゅう(飽きた)」
金の亡者は、冊子をガジガジ噛んで、ケリケリしている。
「……アァー……読……破」
ゾンビキャットは読み終えたらしいが、疲れたのかそのまま寝落ちした。
「って、魔獣幹部さん達、ちゃんと読んで感想くださいよ!」
なお、ここに居ない化け猫は今、中央都市チザンのマッサージサロンに居るらしい。
普通のネコ科魔獣は他人に触られるのはあまり好きじゃないはずなのだが。
まぁ十人十色か。いや十猫十毛色ってところか。
とかくだらない事を考えていたら、オリバー君が読み終えた。
「この脚本、戦いが無いなッ!」
「いや、バトル物じゃないですし」
アウレネはキメラを枕に、スヤスヤと寝ていた。
そのアウレネを枕に、リリーもスピスピ寝息をたてていた。
「……見つけた」
コーディは元々ここに居なかったが、ゾンビキャットを探しにやって来たらしい。
寝落ちしているゾンビキャットを抱っこし、去ってしまう。
「ヨツバ姉さま、読み終えたぞ。
で、感想なんだけど、これって死について考える、ってテーマだったよな?
この脚本、雄猫と雌猫のボーイミーツガールと、死んだ彼氏猫を彼女猫が蘇らせる、って、ちょっとファンタジー過ぎやしないか?」
「死んで終わり! じゃバッドエンドじゃないですか。
私はハッピーエンドが良いんです」
「いやいや。死んだ猫を蘇らせるってのは無しだろ」
ブラディ・パンサーはリオン君が読み終えた冊子を咥えて、嬉しそうに鍛冶場に戻った。
俺はテクテク付いていく。
あっ、冊子を炉に入れた。冊子は燃え尽きた。
せっかく印刷したのに。
ブラディ・パンサーは満足そうな顔して、横になった。
まぁいいか。
店の前に戻ると、スペンサー君が最後に読み終えたらしい。
ヨツバに感想を言うつもりだ。
伊達メガネをクイッと上げて、意見する。
「ヨツバよ。控えめに言って、この脚本はボツだ」
「何でですか! 一所懸命に書いたのに!」
「映画で伝えたかった事は何だ?
死は突然やって来る、取り返しがつかない、だから今ある生を大事にしなければならない、という事ではないのか?
ならば、この死者を蘇らせるという内容は、伝えたい事と真逆を行っているとは思わないか?」
スペンサー君に正論を叩きつけられ、ヨツバは頬を膨らませている。
「……書き直します」
ヨツバは冊子を持って、トボトボと宿に向かって歩いた。
俺はヨツバの肩に飛び乗って、ほっぺたに前足を伸ばし肉球を当てる。
まぁ元気出せよ。
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