478.【後日談4】映画監督ヨツバ その1


昼寝時の宿屋にて。

管理人室のベッドでサバさんが爪とぎしているのを眺めていると、ヨツバが深刻そうな顔をして部屋に入ってきた。



「猫さん、大事なお話があります」


「にゃー(どうした?)」



普段のヨツバは基本、ナンシーさんとネルの影響か、ポジティブ思考なので、よほどの事が無い限り、今みたいな顔をしない。

何があったというのか。



「先日、ネコ科魔獣同士の喧嘩を止めました」


「にゃー(ふむ)」


「かなり流血していて、危険な状況だったんです。

で、私はこう言ったわけです。

『やめなさい! 死んじゃいますよ!』と」


「にゃー(ほうほう)」


「で、喧嘩してた2体がキョトンとして、『みぅ(死ぬってなーに?)』と、こう言ってきたんです」


「にゃー(うん、それから?)」


「喧嘩した2体は病院に運ばれたんですが、私は気になって、街頭調査してみたんです。

すると、親や身近な者の死を経験した者が、若者世代で極端に少ない事が分かったんです」



そういえば、先月の魔獣都市マタタビの死者数は4だったっけ。

先々月は0だし、人口的に考えると少なすぎだよな。



「猫さん、学校のカリキュラムに、死とか、道徳系の授業無いですよね?

このままだと、マズイ気がしますよ。

自分や他者の命を粗末に扱う若者ばかりになるかもしれません」



なるほど。

ヨツバの言う通り、今の魔獣都市マタタビの若者は、死というものに触れる事が極端に少なくなっている。


外から来た者や、寿命の長い者は両親や親族の死を経験しているかもしれない。

しかしこの都市で生まれ、ここから出たことが無い奴らには、死という概念がピンと来ないだろう。


確かにこれは問題だな。



「にゃー(どうする? カリキュラムに道徳入れるか?)」


「多分あんまり変わらないと思います。

それより、映画作りませんか?」


「にゃー(映画?)」


「はい。いつもの授業よりも、そっちの方が直感的に分かりやすいと思います」


「にゃー(そうだな。よし、魔獣幹部達を呼んでくるよ)」


「じゃあ雑貨屋クローバー前にて、30分後集合でお願いします」



ヨツバと分かれ、俺は魔獣幹部達の居る場所へ向かった。



◇ ◇ ◇ ◇



雑貨屋クローバー前に魔獣幹部達と、雑貨屋の店員が集まる。

店員じゃない人も居る。野次馬のネコ科魔獣も居る。


ヨツバから映画についての計画の説明が終わり、質問の時間だ。



「んなー(そもそも映画って何ですかな?)」


「そこからですか」


「にゃー(じゃあ何か1つ、映画を見せよう)」



首輪型PCでを起動し、オンラインビデオショップで、何か適当な映画を購入することにする。



「じゃあ『君のニャは』にしましょう」


「にゃー(いやここは王道で『とニャりのト○ロ』だろ)」


「チョイスが古くないですか?」


「にゃー(何おぅ)」



俺とヨツバは、互いの推しを譲らず口論になる。


その様子に呆れたマック君が、首輪型PCを起動し、『スパイダーニャン』を購入し店の壁に投影し始めた。


ネコ科魔獣達は見入っていた。

どうやらアクション系の映画の方が、ネコ科魔獣受けが良いらしい。

俺とヨツバはマック君に完全敗北した。


こうして、俺達の映画製作が始まった。


……いや、アクション映画は作らないからな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る