471.【後日談4】魔王が集まる その2


骸骨君、ヴァンパイア君とエメラルド板で適当に会話した後、俺は石像に登り、ホールを見渡す。


ホールにはテーブルが沢山並べられ、その上には料理や酒が置かれている。


だが猫の体に悪い物ばかりだ。

俺を招待したのなら、俺に合う料理も作ってくれよ。


俺は石像から降りる。



「にゃー(ご飯くれなきゃ、いたずらしちゃうぞ)」



仕方ないのでテーブルクロスをガブガブ噛んで暇つぶしする。

さぁ、早く俺に料理を持ってこないと、テーブルクロスを穴だらけにしてやるぞ。



◇ ◇ ◇ ◇



途中で紳士淑女にモフられ邪魔されつつも、無事に全てのテーブルクロスの端をボロボロにしてやった。

錬金術を使えば一瞬で元に戻せるが、その前に開催者に料理の事を抗議させてもらおうか。



「魔王デウス様のご登場であ~る」



羊っぽい魔王がホールの奥の扉を開く。

機械の兵隊達が出てきて、そいつらが左右に別れ、道を作る。


長身の白髪の男が現れた。

体が機械仕掛けになっているな。

目や首や腕や胸や足に機械が埋まってたりしている。

サイボーグってやつかな。



「魔王とは何だ。それは神の教えや善に対立する存在と言われている。

では何故私達は魔王になったのか。ならざるを得なかったからだ。

大多数が善と呼ぶ一方的な価値観の押し付けにうんざりし、神の教えにつばを吐く私達。

逆らう者には圧倒的な力と知でもって支配し……」



長ったらしい挨拶が続きそうだったので、俺は聞き流す事にし、テーブルクロスのカミカミを再開した。



「……というわけだ。

さてお集まりの皆さん、王という忙しい立場であるにも関わらず、よく集まってくれた。

ここに居る半数は初参加だが、1000年に1度、こうして魔王が集まり、情報交換を行っている。

会合の後は簡単な催し物も用意している。

私の出来る限りをもっておもてなしをさせていただこう」



デウスがパチンと指を鳴らすと、皆の手元に新聞が現れた。



「ここ最近の主な出来事を、各々の言語でまとめた紙だ。

新聞と呼ばれている読み物だ。各自、持ち帰って読むといい」



俺は貰った新聞を軽く読み、特に新しい情報も得られないっぽかったので、四次元空間に仕舞った。

後で窓拭きにでも使わせてもらうか。



「デウスさんよぉ、俺ぁ、はるばる遠方から転移してきてやったんだぜぇ?

なのにお土産がこんな紙切れの束たぁ、舐めてんのかぁ?」



ガラの悪い、赤鬼っぽい体の魔王が、デウスに詰め寄る。

俺の近くの裸ネクタイでマッチョなウサギ魔王が呟く。



「あーあ、アイツ終わったな。デウス様に喧嘩を売るなんて、身の程知らずめ」


「にゃー(そんな事よりお腹空いたぞ。俺のご飯はまだか)」


「バステト様や、これを食べてくだされ」



シルフ婆さんが、雑貨屋クローバーで売ってるネコ科魔獣用ジャーキーを渡してくれた。

だが、このような場で自分で食べ物を持ち込んで食べるのは下品、失礼に当たる。

俺はそっとジャーキーを返した。



「選りすぐりの者達を呼んだつもりであったが、どうやら自他の力の差も分からぬネズミが混じっていたみたいだな。

目障りだ。失(う)せよ」


「ぐぁぁぁああ!」



デウスが鬼魔王に右腕からロケットパンチを繰り出す。

鬼魔王が外へと吹っ飛ばされた。

腕はUターンして飛んで戻って来た。

何あれ楽しそう。



「他に我に文句がある者が居れば、相手になるぞ」


「にゃー(じゃあ次は俺の番だな)」



俺はてくてく歩き、デウスの前に出る。



「む? トミタか。神殺しを行った貴君と敵対するのは得策ではない。

何か気に触る事があったか?」


「にゃー(俺が食べる物が無い)」


「ふむ」


「にゃー(味付け無しの焼いたお肉を所望する!)」


「ほうほう」


「にゃー(脂肪の少ない赤身肉でお願いしまーす)」


「済まないが、にゃーにゃー言われても、猫の言葉は分からないな」



おい、猫を招待するなら、ネコ科言語を覚えておくか、翻訳の人を用意しておかないと駄目じゃないか。


仕方ないので、俺は首輪型PCを起動し、音声読み上げソフトを立ち上げる。



『ヒレ肉を、味付けなしタレなし薬味なし焼き加減はレアでお願いします』と打つ。


「用意するのは構わないが、別途料金をいただくことになる」


『ケチ!』と打つ。


「おいアレって」


「ゆ○くりボイスだな……」


「転生者か」


「というか食べる物がなかったのか。可哀相に」



周りがザワザワ騒ぐ中、牛っぽい魔王がやって来て、自分の顔の肉をボコッと取り、俺に差し出す。

ア○パンマンかな?



「んもぅ(よければ、どうぞ)」


「にゃー(ありがとうございまーす)」



牛魔王の顔はすぐ元に戻った。

回復をかけるまでもなさそうだ。


俺は火が使えそうな場所までテクテク歩き、カセットコンロを取り出し、フライパンに肉を乗せて焼く。


適度に焼けたので、食べてみる。


ふむ、もも肉っぽい味。

美味い。



「猫の魔王というのは、自由だな……」



デウスは俺を見て、呆れたような顔をしていた。


おっと、後で錬金術でテーブルクロスを修復しておかなければ。


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