469.【後日談4】ブラジャー
宿屋にて。
今日の夕食は、キラーボアステーキらしい。
沢山のお肉が鉄板に並べられ、ジュワジュワ音を立てて焼かれている。
そしてこの匂いに釣られたネコ科魔獣が、宿屋の外の扉でスタンバっていて、「んにゃー!(開けろー!)」と喚いている。
おっと、宿屋に戻ってきたお客さんが扉を開けた隙に、3体ほど侵入したぞ。
俺は彼らの前に立ち塞がる。
「にゃー(ここから先は通さないぜ)」
「んにゃう!(肉球魔王様だ! だけど負けるもんかー!)」
走ってきたネコ科魔獣を掴んでは、優しく投げ、を繰り返す。
ネコ科魔獣なのでこのくらいで怪我はしない。
「焼けたから、ネル、持っていってね」
「はーい」
ネルが台所から、ステーキの乗った皿をトレーに4枚ほど乗せ、こちらにやって来た。
「んにゃお!(よこせー!)」
「にゃー(やめぃ)」
ネルに飛びかかろうとするネコ科魔獣を前足で抑える。
もう1体、飛びかかろうとしたが、影からサバトラ猫のサバさんが突進して取り押さえた。
「みゃう~(駄目です、あれはお客様の分です)」
「んにゃん!(やーだー! お肉欲しいのー!)」
ネルが何度か往復し、無事、お肉は食堂へと運ばれた。
「あら猫さん、今日は肉球魔王様は一緒じゃないのね」
「にゃー(こんにちは)」
ナンシーさんは俺と、サバさんと、肉球魔王様の分のステーキ(味付けなし)を用意してくれていたらしい。
俺とサバさんの前に、小さめのお皿に乗ったステーキが提供された。
「あなた達も食べる?」
「んにゃう(わーい、お肉ー)」
「あらあら、良い食いつきね」
「みゃおう(甘やかしては駄目です!)」
うーむ、次から肉球魔王様の分は用意しなくていい、って頼んでおくか。
「にゃー(サバさん、ナンシーさんに伝えてくれ。内容は……)」
「みゃーう(了解です)」
「んにゃ(隙あり!)」
「みゃ(あっ)」
サバさんが食べかけていたステーキを、ネコ科魔獣がかっさらっていった。
そして俺の方を見て泣きそうな顔をする。
俺にどうしろと。
可哀相なので、こっそり鶏肉チップをサバさんにあげた。
◇ ◇ ◇ ◇
宿に侵入したネコ科魔獣も帰り、時刻は夜。
ベッドの上でのんびりしていたら、サバさんがウンチ付いた汚いお尻を俺に向けてくる。
ウェットティッシュを取り出し拭いてやったら、逃げていった。
何がしたかったんだ。
「猫さん、もう寝ようか。
あれ? ウェットティッシュがある。
せっかくだから猫さんを拭いてあげ」「にゃー(断る)」
前みたいにサバさんの尻を拭いたやつで俺を拭かれてはたまらないので、四次元空間に仕舞った。
後でゴミ箱に入れよう。
「ママはお友達と飲みに行ったんだってー。
ヨツバも一緒に行ったみたいだし、今日は2人きりだねー」
「にゃー(2人?)」
1人と1匹ではなかろうか。
というかサバさんも居るし、1人と2匹だな。
あと、ヨツバが一緒に行っている理由は、合コンだからだ。
親子で行くなよ、と思うが、ナンシーさんは自分がまだ若いつもりでいるらし……寒気がするのは気のせいか?
「ネルも早く大人になりたいなー」
「にゃー(あの2人の事はあまり見習わない方がいいぞ)」
ネルは悪女の才能があるから、夜の女のトップに君臨する可能性がある。
フランベル国に居た頃は宿屋の女将で生涯を終えたが、ネルの子ども達がその才能を受け継いで、夜の街を支配下に置いた。
今思えば、錬金術師を大量に失って景気がどん底の時に、アレックス君が地下施設を作れるほどの研究費が捻出出来たのも、ネルの子ども達が貢いだおかげでもあった。
「ブラジャーを付けたら大人になれるかなぁ?」
「にゃー(そんな考えをしているうちは、まだ子どもだ)」
ネルは、寄せて上げるブラジャー(ヨツバの)をタンスから取り出し、服の上から胸につけてみる。
が、すぐ飽きて、近くで興味深く観察していたサバさんに投げた。
サバさんはブラを噛んだりケリケリして遊んでいる。
ネコ科魔獣あるある、オモチャじゃない物をオモチャにして遊ぶ事の方が多い。
「猫さん、おやすみなさーい」
「にゃー(おやすみ)」
「ふんす、ふんすっ!(楽しいです!)」
遊ぶサバさんを横目に、俺達は寝ることにした。
翌日、男をゲット出来なくてションボリした表情でヨツバが帰ると、お気に入りのブラが噛みちぎられて、床に放置されていた。
その事を俺に抗議してきた。いや、知らんがな。
ナンシーさんは、いいところまでいったが、年齢を聞かれて答えたら断られた、とプンプン怒っていた。
まぁ、年とった女性よりも若い子の方がいいよなぁ……寒気がするのは気のせいか?
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