467.【後日談4】偽物に気をつけろ その5
・ハーディス様公式ファンクラブ会員トミタ(猫)視点
偽物君と共存をすると決めた翌日。
俺達は早くも仲違いムードだった。
「ごめんなさいね。元々猫さんの分とサバさんの分しか、おやつを用意してなかったのよ」
ナンシーさんが申し訳なさそうにしている。
何と、俺とサバさんのおやつが、俺、偽物君、サバさんの3体で分けられることになったのだ。
結果、元の3分の2に分前(わけまえ)が減ってしまった。
少なくなった魚の切り身のおやつを前に、サバさんが叫ぶ。
「んみゃーお(うわーん! いつもより少ないです!)」
「にゃー(おい偽物君、お前は自重しろよ)」
「ニャー(だから俺は偽物じゃないぞ)」
偽物君のくせに、人の家にまで上がり込んでおやつを貰うとか、図々しいにも程がある。
何考えているんだ。
(※この肉球生物、自分の事を棚に上げています)
一触即発ムード。
既に睨(にら)み合いが始まっている。
サバさんは我関せず食べている。
「(モグモグ)……んみゃう(おいしかったです!
おやや、二人とも要らないんですか? だったら私が貰います)」
「「にゃー(あっ)」」
サバさんは俺達のおやつを2切れとも口に咥え、逃げていった。
これが漁夫の利か。
「あらら、サバさんったら」
「喧嘩は駄目だよー」
おやつは食べ損ね、ネルに注意され、散々なお昼だった。
◇ ◇ ◇ ◇
今日は暑いので、宿屋の玄関にはひんやりする風を送る魔道具が設置されている。
そして、魔道具の近くの床はいい感じに冷たくなって気持ち良いのだ。
俺がてくてくと昼寝場所に向かうと、俺と同じくそこに向かう途中の偽物君が居た。
「にゃー(おい、そこは俺が昼寝しようとしている場所だぞ)」
「ニャー(俺だってここで昼寝したい)」
「にゃー(仕方ない、一緒に寝るか)」
「ニャー(仕方ないな)」
ぴとり。
俺達はくっついて寝る。
……。
…………暑苦しい。
「にゃー(もっとそっち行けって)」
「ニャー(それはこっちのセリフだ)」
「にゃー(何をぅ)」
「ニャー(やるのか?)」
ポコポコポコ。
猫パンチの応酬が続く。
「仲良さそうですね」
ヨツバに微笑ましい物を見る目で見られた。
これのどこが仲良さそうに見えるんだ。
◇ ◇ ◇ ◇
夜の自宅にて。
あの後も俺達の衝突は続き、お互いクタクタになって大の字で寝転んでいた。
「にゃー(まさか思考が似ている事で、ここまで行動が被るとは)」
「ニャー(予め行動を分担していない限り、同じ状況下では同じ行動をしてしまう。
こんなんで毎日過ごしたら、ストレスで
「にゃー(もっと根本的な解決法が必要だな……)」
「ニャー(だな)」
うーむ、偽物君を排除するのはネル達が悲しむし。
かといって、行動を逐一こいつと相談して決めるのはストレスだ。
どうしようか。
……。
……あ、
「「にゃー(合体だ!)」」
俺達の体と魂をまとめて、1つにしてしまえばいい。
と簡単に言ってみたものの、人間で言えば手術で2人を縫い合わせて1人にするようなもの。
かなり危険な作業だ。
どちらかが暴れたりしたら、お互いの魂はタダでは済まない。
……普通ならな。
俺達はほぼ思考パターンが同じなので、そういった危険はほとんど無い。
「にゃー(一応、その気になればいつでも分離出来るような感じで)」
「ニャー(とすると、ジグソーパズルの要領か)」
「にゃー(つまり魂をこう組み替えて)」
「ニャー(こんな感じでくっつけて)」
鼻と鼻をくっつける。
偽物君の記憶が俺の中に入ってくる。
模擬戦闘を沢山行い、心をすり減らす毎日。
ネル達の事を心の支えとして過ごし、やがて電子世界から出る。
俺の記憶が偽物君の中に入っていく。
アレックス君を蘇生し、子どもネコ科魔獣を育てるのに夢中だった日々。
別に怠けていたわけではない。幸せな時間を過ごした。
ポン!
俺達は合体し1つになった。
「にゃー(よし、成功だ)」
体の動きに異常なし。
というか経験値・スキル・称号が2体分なので、とってもパワーアップした。
やったぜ。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
雑貨屋クローバーにて。
仕入れた商品の確認をしているヨツバに、昨晩の事を話した。
「にゃー(というわけで、合体した)」
「何が『というわけ』ですか、頭おかしいんじゃないですか!?」
「にゃー(分離も出来るぞ。とう!)」
俺は、2体に分離した。
「ニャー(じゃあ打ち合わせ通り、俺は神様の仕事をちょちょいとこなしてくる)」
「にゃー(おう。雑貨屋クローバーの事はこっちに任せておけ)」
偽物君、いや、元肉球魔王様A、長いから
「猫さんは、いったいどこに向かってるんですか……」
「にゃー(彼なら、神スペースに行ったぞ? 俺は今日はここに居る予定だが)」
「そういう意味じゃないです」
ヨツバがため息をつく。
疲れているのなら、俺をモフるといいぞ。
ほれほれ。
体を彼女の足にくっつけていると、毛がつく、暑苦しい、と怒られた。
酷いや。
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