466.【後日談4】偽物に気をつけろ その4


・ハーディス様公式ファンクラブ会員トミタ(猫)視点



宿屋で起き、ベッドで二度寝した後、俺は雑貨屋クローバーへと向かった。

昨日仕入れの仕事を割り振った偽物君が、きちんと働いているか確認するためだ。


店に入ると、レジのカウンターで『店員です』と書かれたTシャツを着た偽物君がちょこんと座っていた。



「にゃー(偽物君は何してるんだ?)」


「ニャー(俺は偽物じゃないぞ。見ての通り、店番をしている)」



隣には店番のコーディが居るが、カウンターに突っ伏して寝ている。

仕事しろよ。


ゾンビキャットも横で彼女にくっついてスヤスヤ眠っている。



「にゃー(で、仕入れた商品はどこに置いたんだ?)」


「ニャー(倉庫に決まってるだろ。今棚にある分が売れたら、ゴーレムが倉庫から補充分を持ってきてくれる。

お前もよく知っているはずだが)」



ふむ、俺の偽物というだけあるな。

このくらいの仕事は普通に俺の代わりが務まるらしい。


俺は倉庫へと向かう。



◇ ◇ ◇ ◇



倉庫には、ダンボールが山積みになっている。

俺は微細な電子線を感知出来るので、意識すればダンボールの中身も分かる。

うむ、きちんと揃っているな。



「みぁーん(開けてー! この扉を開けてー!)」



倉庫は、ネコ科魔獣が勝手に入らないように、普段は施錠している。

倉庫に入りたがっているネコ科魔獣が開錠を要求する声が外から聞こえる。


俺は開錠してみる。


キィィィ。


だっだっだっだっだ。

ネコ科魔獣が5匹ほどダッシュで入ってくる。



「みぁうー(うひょー!)」


「んにー(アスレチックだー!)」


「あーん(ダンボールの山じゃーい!)」


「にゃー(売り物だから、中は触っちゃ駄目だぞ)」



ダンボールに登ったり、ガリガリ爪を研いだり、ガジガジかじったりしている。

本当好きだよな、ダンボール。



「こら! 何事ですか!」


「みぁん(人間だー! 隠れろー!)」



ヨツバが現れ、ネコ科魔獣達が追い回される。

1体、また1体、ケージの中に捕獲される。


そして全員捕まり、倉庫の外にて開放された。



「もう、どこから入ったのやら」


「にゃー(俺が中に招待した)」


「偽物の猫さんがですか?」


「にゃー(いや、俺がやったんだが)」


「だから偽物の猫さんがやったんですよね?」



……ん? 話が噛み合ってないぞ。



「データベースを参照すると、あなたは『肉球魔王様B』と登録されています。

つまり後から来た者、偽物ですよね?」


「にゃー(いや、偽物君がAが良いって聞かないから、譲ってやったのだが)」


「そんな話は知りません。向こうの猫さんは早朝から働いているのに、あなたは仕事の邪魔をしています。

どちらが本物かどうかは知りませんが、この場にふさわしくないのは、あなたですよ」


「にゃー(いや、だから俺が本物で……待ってくれよ!)」



話は終わりとばかりに、ヨツバはスタスタと歩いて行ってしまった。


偽物は向こうの方なのに。

どうして分かってくれないんだ。



◇ ◇ ◇ ◇



夜。仕事が終わり、自宅で横になる。

今日は雑貨屋でヨツバ、スペンサー君、コーディに偽物扱いされた。

悲しい。


この状況の恐ろしいのは、偽物君は俺やネル達に一切の敵意を持っていないという所だ。

自動防御の1つの、敵意監視網が全然反応しないからな。


試しに、俺が偽物君に少し敵意を向けて見ると、



『『『『……』』』』



俺と同じく偽物君が張っている敵意監視網が、俺に対して臨戦態勢に入る。

負けはしないが、数年くらい不毛な戦いを強いられることになるだろう。


敵意を引っ込めると、敵意監視網は姿を潜めた。


俺は能力の大半をこの敵意監視網に割いている。

なので向こうから仕掛けてくれた場合の方が、能力全開で叩ける。


ま、それは向こうも同じなのだが。


なので、俺は事前に用意していた『自分の偽物が現れた場合の対処法』を全く活用出来ずにいる。



「にゃー(何で偽物君は俺と共存しようとしているんだ。

普通、俺の存在を消そうとか、俺の事を辱めるとか、色々仕掛けてくるだろ)」


「ニャー(そんな事したら、ネル達が悲しむだろう。

自称本物のくせに、それも分からないのか)」



独り言のつもりだったが、いつの間にか偽物君が隣に居た。



「ニャー(ネル達が俺とお前を間違えるのは、見分けるための判断材料が無いからだ。

1つの称号、そしてここ最近の1年分の記憶を除いて、俺とお前は全く同じだ)」


「にゃー(そうだな)」


「ニャー(だからふとしたきっかけで、お前も偽物扱いされる。

今日1日偽物扱いされた気分はどうだ?

俺は電子世界からようやく帰ったと思ったら、自分が偽物の可能性が高いと言われたんだぞ?

それにようやく会えたネル達に、ずっと偽物扱いされたんだぞ。

この気持ちがお前に分かるか?)」


「……」


「ニャー(この際だからはっきりと言っておくが、俺はお前をどうこうするつもりはない。

俺が偽物だろうと、それはそれで構わない。

だが、ネル達を大事に思っているのはお前と変わらない。そこは妥協しないし譲らない)」



まぁ、そうだろうな。

でなければ、わざわざ俺と同じように、敵意監視網をネル達の分まで張ったりしないよな。



「ニャー(まぁ何が言いたいかというと、仲良くしましょう、ってことだ)」


「にゃー(仕方ないな)」



不本意だが、偽物君とは共存するしか無いらしい。

恐らくこの先何年も、何十年も。


いや、きっと一生、か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る