465.【後日談4】偽物に気をつけろ その3


・幸運の女神の使徒トミタ(猫)視点



俺は電子世界のデータから作られた偽物だ、と言われた。

向こうは誤解が解けて良かったと言っているが、俺は納得いかないぞ。

というか信じられない。


俺の本物を名乗る彼が、俺を陥れようとしている可能性だってある。

だとすれば、もし俺がここを離れた場合、彼の思う壺ってことになる。



「ニャー(というわけで、俺は自分が本物だという主張は曲げるつもりはない)」


「にゃー(いや、さっき説明した通り、俺が本物なんだが)」


「ニャー(だがそれはどうやって証明する?

俺は確かに電子世界から飛び出してきたが、本当に俺は最初からずっと電子世界に居たのか?

もしかしたら、意識フルダイブ型戦闘シミュレーター大部屋を俺が利用した際に、お前と意識をすり替えられたかもしれないのに?)」


「にゃー(いや、幸運の女神様も謝っていたし)」


「ニャー(それとこれは話は別だ。お前が信用出来る奴だという理由にはならない)」



まぁ、仮に俺が偽物だったとしても、ネル達と別れるつもりもないし。

それは向こうも同じだろう。



「はー、ちょっと休憩しようかしら。

あら? 猫さん、分身したの?」



ナンシーさんが受付からこっちにやって来た。



「こっちが猫さんで、こっちがそっくりさんだよー」



俺を指さしてネルがそっくりさん扱いする。

悲しい。



「なるほど。ということは、あなたが肉球魔王様ね」



ナンシーさんが俺を抱き上げる。

彼女の中では、猫さんと肉球魔王様は別人らしい。



「すごいわね、影武者の猫さんと区別がつかないわ」


「猫さんは影武者じゃないよー」


「そうね。猫さんは猫さん。肉球魔王様は肉球魔王様ね」



つまりナンシーさんから見ると、俺が肉球魔王様、あっちが猫さん、ということか。


いや、俺が猫さんなのだが。

肉球魔王様なんて二つ名は返上してもいいから、俺を猫さんって呼んでくれよ。



「みゃう~(ずるいです、私も抱っこしてください!)」



サバさんが部屋に入ってきて、ヤキモチを焼いてきた。

俺は降ろされ、サバさんが抱っこされる。


ネルは自称本物のそっくりさんを抱っこし、ナデナデしている。


ふーむ。

別に羨ましくないが、のけ者にされている感じがする。



「じゃあ私が猫さん2号を抱っこしましょうか」


「ニャー(誰が2号だ)」



俺はヨツバに抱っこされる。

うーん、抱っこが下手くそだ。



「ニャー(俺の体が不安定だぞ。もっとこう、お尻を支えるようにしてだな)」


「何で偽物に抱っこのダメ出しされてるんですかね……」



そうして宿が忙しくなるまで、俺達は抱っこしてもらった。



◇ ◇ ◇ ◇



・ハーディス様公式ファンクラブ会員トミタ(猫)視点



夜。中央広場にて。


今日も魔獣幹部の会合が行われるのだが。



「んな!(肉球魔王様が2人!)」


「うみゅう(ありがたさ2倍)」


「どっちも良い男だねぇ!」


「ガゥ(まー、2人居ても3人居ても別に構わないけど)」


「アァー……ノー……プロブレム」



周りの野次馬達も、珍しい物を見る目で見てくるけれど、すぐ興味を無くしてあくびしている。


ネコ科魔獣達にとって、俺が増えた事など大した問題ではないらしい。

どうでもいいが俺の数え方は人じゃなくて体、あるいは匹だと思うぞ。


まぁ都市の運営はほとんど魔獣幹部に任せているし、俺が口出しする事はほとんど無い。


なので俺は首輪型PCを起動し、雑貨屋クローバーの売上データをチェックしている。


偽物君の方をチラリと見る。

向こうもこちらを見ていた。

というか俺と同じく売上データのチェックをしていた。



「にゃー(何か用?)」


「ニャー(いや?)」


「にゃー(データチェックは俺がするから、お前は何もしなくていいぞ)」


「ニャー(お前に指図される筋合いはない)」



俺の言う事聞かないのは、どうせ俺の事信用出来ないとか、そんな理由なのだろう。

まぁ気持ちは分かるが。


どうせ俺が2匹居るなら、同じ事しないで、別々の事を分担すれば作業効率がよくなると思うんだがなぁ。



「にゃー(提案があるのだが)」


「ニャー(一応聞こうか)」


「にゃー(作業分担しよう。

俺を肉球魔王様A、お前を肉球魔王様Bとして、仕事を割り振るだけでもだいぶ違うはず)」


「ニャー(それはいいが、何で俺がBなんだ。Aでもいいだろ)」


「にゃー(お前が偽物なのだから、お前がBだろう)」


「ニャー(誰が偽物だ。あくまで俺が元々データである可能性が高い、というだけの話だろう。

それに、例え俺がお前を元にして作られた偽物だったとしても、俺はこうして存在している。

だから俺がお前より劣ってるということも、俺が2番手だということも無いんだからな)」


「にゃー(分かったよ、じゃあお前が肉球魔王様Aでいいや)」



こうして、俺達は仕事を分担する事になった。

だが、俺は偽物君がどうしてAにこだわったのか深く考えていなかった。

自分が偽物と疑われる気持ちを全く考えていなかった。


翌日、雑貨屋クローバーで仕事をしている彼が本物扱いされ、俺は偽物扱いされるのだった。


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