462.【後日談4】猫さん、猫を拾う その3


あれから1年。


自宅にて。

俺は壁にかけたテレビで、拾った子どもネコ科魔獣達が小さい頃に撮ったビデオを見ていた。



『みー(もっとごはんー)』


『にゃー(食べ過ぎると太るぞ)』


『びぅ(遊び足りないよー)』


『にゃー(そこに居るサバさんに遊んでもらえ)』


『んみぉ(わーい!)』


『ちょ、登らないでください! 爪立てないでください!

頭噛まないでください! 猫さん! 子ども、ちゃんとしつけてくださいよー!』


『にゃー(そんな事言われてもなぁ)』



小さくてコロコロしていた子どもネコ科魔獣は、今や1歳となり、俺より大きくなっていた。

今日は学校区画で授業を受けているらしい。


それにしても、今となって後悔している事がある。


小さな頃の写真や動画、もっと沢山撮っておけばよかったなぁ……!

多分、撮り過ぎくらいで丁度良かったんだろうな。



◇ ◇ ◇ ◇



翌日。学校区画、マタタビ会館大ホールにて。

今日はネコ科魔獣の卒業式の日だ。


当然ながら、普段ならじっとしているだけのこんな退屈な行事、ネコ科魔獣はボイコットする。


だが、それもこちらは想定済み。


ステージの上には、魔獣都市シャケで仕入れた巨大な魚の肉のブロック塊。

隣には切り分け係の人間数人、渡す係の魔獣幹部火車。


ネコ科魔獣達には、卒業証書の代わりに、O・SA・SHI・MIをプレゼントするのだ。

どうせ卒業証書渡したってボロボロにされるからな。



「んなー(卒業生代表、緑トラ白)」


「みー(はい)」



なお、騒いだ者は退場させられる。

もちろん刺し身は無しだ。

なので皆静かにしている。


ま、退場したとしても、卒業したという記録は残るから別に問題無いけどな。



「みーっ(私は中央都市チザンで生まれ、貧窮していた親から捨てられていたところを、幸運にも肉球魔王様に助けていただきました。

ですが、世の中には明日の食事もままならない者が数多く居る事をこの学校で学びました。

私と2体の兄弟は卒業後、世界から飢えと貧困を無くすために、魔獣都市マタタビを出ようと考えています。

先生方、スタッフの皆様、同級生の皆様、そして肉球魔王様。本日まで、大変お世話になりました)」


「んなお(立派な志ですぞ。卒業おめでとう)」



短い挨拶が終わり、刺し身が人間から火車に渡され、火車は咥えた刺し身をポイ、と子どもネコ科魔獣に渡す。

この雑な感じが何ともネコ科魔獣らしい。


それにしても、月日が経つのは本当に早い。

あの子どもネコ科魔獣も小さな大人になってしまった。

寂しいぞ。



「んなおー(では10体ずつ、並びましょう。刺し身を渡しますぞ)」


「あーん(わーい!)」


「みゅ~(新鮮なO・SA・SHI・MIにゃ!)」


「にぃ(はやくー! はやく食べたいー!)」



10体ずつ、と言われたのにそれを聞かずにブロック塊に群がる子どもネコ科魔獣達。

というか大人が何体か混じってる。


その様子に、俺のしんみりとした気分もどこかに吹き飛ばされてしまった。



「みー(肉球魔王様)」


「にゃー(あの頃みたいにママーって呼んでもいいぞ)」


「みぃ(いえ、幼い頃は目がきちんと見えなくて、何も分からなかったものですから……)」



拾った子どもネコ科魔獣が、俺の前に並ぶ。



「みー(本当に、今までお世話になりました!!)」


「「びぇぇんーみっ(お世話になりましたぁぁーー!!)」」


「にゃー(辛かったらいつでも帰ってこいよ。

というか別に、どこかに行かなきゃとか義務もないんだし、この都市に居ていいんだぞ?)」


「みー(いえ、私達が肉球魔王様に拾われた事はきっと、運命だったのでしょう。

私達はとても幸運でした。ですが、誰もが幸運でなくても生きていける、幸福になれる世界を作りたいのです)」


「にゃー(そうか)」



俺は結構適当に育てたのに、子どもネコ科魔獣達は大真面目になってしまった。

一体どうしてこうなった。


子どもネコ科魔獣達はその日のうちに出発してしまい、夜、俺は久々に一人(一匹)寂しく自宅で寝る事になった。

心にぽっかり大きな穴が空いたような気分だ。

これがペットロスってやつか。

いや子どもが独り立ちした時の親の気分か。


結局寝られなかったので、昨日見てたビデオを引っ張り出して、もう一度見ることにした。

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