449.【後日談4】天才錬金術師 その5
・アレクサンドラ視点
ここは錬金術工房。
猫さんとカルロ先生の厚意で、実験室の1つを貸し切りにしてもらった。
さらに、カルロ先生は俺に助手を5人も寄越してくれた。
あと猫さんから助手用ゴーレム1体と、ホムンクルスという錬金術の生物を1体借りている。
真面目そうな助手5人相手に、俺は聞く。
「さて、諸君。俺は言いたい事があるのだが、分かるか?」
「ええと、我々はアレクサンドラ様の実験を手伝うよう、仰せつかっていますが……」
「聞き方が悪かったか。じゃあ質問を変えるぞ、俺が今、何に不満を持っているか分かるか?」
「不満……?! 失礼ながら、施設は最高品質の実験用魔道具を取り揃えています。
我々も、厳しい訓練を受けているので、並大抵の苦行では
これ以上の環境を求めるのであれば、それは世界中どこを探しても難しいかと」
「はぁ……あのね、ここは魔獣都市だよ? なのに、魔獣の助手が1人も居ないのはどういう了見か、って聞いてるんだ」
「……」
助手達は、何言ってんだコイツ、って顔をしている。
「アレクサンドラ様、ネコ科魔獣は、その、飽きっぽい魔獣でして……それこそ魔獣幹部クラスでなければ、とても実験に耐えられないかと」
「おい、お前は『そんな事出来っこない』って言いたいのか?」
「いえ、ですが現実問題として難しいかと」
「俺の一番嫌いな言葉は『どうせ』と『無理』と『出来っこない』だ。
もしこれらの言葉、あるいはそれに相当する言葉を今後言ってみろ。この実験室から追い出すぞ」
「失礼しました」
「あと、別にネコ科魔獣でなくても、協力してくれる魔獣は居るだろう?」
「……それも厳しいかと」
「お前クビな。あと黙ってる他の連中、何か意見を言ってみろ」
「魔獣国では、基本的に人間は奴隷の扱いです。知能の高い魔獣は、プライドも高いものです。
とても人間の実験に付き合って貰えるとは思えません」
「お前もクビだ」
結局、俺はうだうだと言い訳ばかり並べる5人の人間の助手全員を、実験室から追い出した。
まったく、どうして最初から諦めたり、やる気を削ぐような事ばっかり言うんだ?
猫さんなら、どんなに時間がかかっても、絶対に『無理だ』なんて言わないぞ?
あんな連中がこの世界の研究者の最高峰だというのなら、この魔獣都市マタタビの錬金術のレベルの“低さ”にも納得出来る。
猫さん以外、まともにチャレンジしてないんじゃないかと本気で心配するレベルで、進歩が足りない。
安全志向というか、臆病というか、軟弱というか、温室育ちというか。
フランベル国の衰退していた頃の錬金術師の方が、まだやる気に満ちていたよ?
仕方ない。
実験の助手は、自分でコツコツと探すことにしよう。
まずは1人でも出来る実験から取り掛かるか。
幸い、猫さんが貸してくれたゴーレムと、ホムンクルスが居る。
ゴーレムについては設計図を貰ったからある程度の性能は把握しているけど、ホムンクルスについては完全に未知数だ。
猫さんからは、ホムンクルスの設計図や製造方法は特許の関係で手に入らないし、彼らはゴーレムより柔軟で使い勝手が良いと聞いている。
さっそく、このゴーレムとホムンクルスで性能比較テストをすることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
・トミタ(猫)視点
雑貨屋クローバーの窓際で通行人の観察をしていると、カルロ君からメールを受け取った。
首輪にはメール機能も実装しているのだ。
どうやら、アレックス君は助手がお気に召さなかったらしい。
忙しいからメールでの謝罪文だが、改めて対面で謝罪すると書かれていたので『気にするな、必要ない』と返信した。
アレックス君には上司の資質は無いらしい。
まぁ元々アレックス君は一匹狼だからな。
馬が合わない奴と組んでも、かえって邪魔か。
『ははははは! いきなり部下を全員クビにするか!
やはりアレクサンドラは面白いな!』
「にゃー(笑い事じゃないぞ)」
面白い、でクビにされた連中はたまったものではない。
後で給料の補填をするように頼んでおくか。
心療内科も受診させておこう。
『トミタ、あのアレクサンドラの今後はどうなると考える?』
「にゃー(気の合う仲間を求め、やがて魔獣都市マタタビで2体、中央都市チザンで5体の魔獣と人間3人と出会う。
彼らとともに、自分で研究所を立ち上げる。
それから、ホムンクルスを超えたハイブリッド・ゴーレムを作成し、魔獣都市マタタビに革命を起こす)」
『俺の見立てとほぼ同じだな。だが、それ以上の事をしたら面白そうだな』
「にゃー(その時は、その時だ)」
俺達の予想を超えようが、超えまいが、どちらでもいい。
思う存分、自分の好きな事だけに打ち込んで欲しい。
ここは魔獣都市マタタビ。
誰もがのびのびと暮らし、呑気に昼寝が出来る、そんな場所。
俺とアレックス君が夢見て、みんなで実現させた、理想の都市だ。
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