426.【後日談3】潜入! 魔獣都市マタタビ その5


アウレネが持ってきた呪いのすごろくは、ダンジョン産の宝。

宝の製作者は、呪いの神、か。


ダンジョンというのは結局のところ、神様の暇つぶしとして作られた異空間。


それぞれの特徴に差こそあれ、中が迷路になっていて、魔獣が蔓延はびこり、宝があり、奥にぬしと呼ばれる者が居る。

そして宝や魔獣の希少素材を求めて、ダンジョンの中に入って冒険をする者が居る。

アウレネの場合は単に力試しに、潜ってきたのだろうか。


呪いの神は強大な神様の中の1柱だ。


神様の格と力は基本的に、それぞれの功績、信仰、担当する事への知名度によって決定する。

例えば『どうかお願いします幸運の女神様』などと考えるだけで、幸運の女神様へ信仰が捧げられる。

そして幸運の知名度が上がる。


その理屈から、馴染み深い物や事の神様ほど、強大な力を持っている。

パンの神様とか、トイレの神様とか。


そして、そんな呪いの神様が作ったすごろく。



「2回目だから知ってる人もいますけど、一応ルールを説明しますよ~。

このすごろくは、サイコロを振って、こまをサイコロの目の数まで進めます~。

そして、マスに止まった呪いを自分が受けたり、他のプレイヤーへ与えます~。

マスの色が赤なら自分が呪いを受けます~、青なら自分が呪いを与えます~。

呪いに応じて、呪いポイントが蓄積されて、見事ゴールした方は、このすごろくからご褒美が貰えます~。

制限時間は3時間なので、注意です~」



自分や相手を呪う、友情破壊系のすごろく。

ただまぁ、命に関わるような呪いは入っていない。

たまに死にそうになる呪いはあるけど。


俺はエメラルド板に『ヨツバとオリバー君が強いから、彼女らから狙っていくぞ』という文字を刻んで、こっそりとスパイ君に見せる。

スパイ君は困惑しているみたいだが、遊んでいたらそのうち分かるだろう。


なおこのゲーム、呪いの神様が見守っているのでサイコロにイカサマは出来ないし、サイコロの出目操作も出来ない。

6を出そうと力加減や角度を調整しても、どこからともなく風が吹いたり、重力が少し変化したりする。

ヨツバは出目操作するつもりだろうが、まぁ無理だろうな。



◇ ◇ ◇ ◇



・人間国からのスパイ視点



「そうそう、順番が来ても居ない、または動けない方の番は飛ぶので注意です~」



すごろくというテーブルゲームは遊んだことはある。

しかし、私は混乱していた。

相手に呪いを与えたり、自分が呪いを受けるすごろく?

聞いたことがない。



「カードを引いてください~、数の大きい人からサイコロを振りますよ~」


「にゃー」


「にゃんこさんが1番です~」



肉球魔王様が6面サイコロを振る。

出た目は6。駒を進める。

赤いマス『隣町へテレポート』

……は?


シュバッ!

肉球魔王様が一瞬ブレた。



「さすがにゃんこさん、隣町程度なら一瞬で帰ってきますね~。

次は私です~」



アウレネが6面サイコロを振る。

出た目は4。駒を進める。

赤いマス『石化の呪い』

……え?


アウレネは石になった。



「さて、次は私ですね」


「いやいやいや?! 大丈夫なんですか彼女?!」


「何を言ってるんです? これはアウレネの作戦ですよ?

このすごろく、呪いは1度に1つまでしか受けられないのです。

彼女は次の自分の番が来るまでギリギリ石化を、わざと解いていないんです」



意味がわからない。


次はヨツバの番。

サイコロを振る。



「(ふっふっふ。今日のために練習した私にかかれば、連続で6を出す事など朝飯前です!)」


「みゅ~(猫ぱーんち!)」


「ああー?!」



サイコロがリリーによってバシッと弾かれる。

出た目は1。赤いマス『激辛(げきから)の呪い』



「何するんですかー! ぐぉぉおおお水、水ー!」


「みゅ~(コロコロと転がっているのを見ると、つい我慢が出来なくなったのにゃ)」



呪いのすごろくの端に文字が現れる。

リリーは他者のサイコロを操作したので、不正により失格、と。



「白猫さん、アウトだよー」


「みゅ~(このくらいで失格なんて、酷いにゃ)」


「次は俺の番かッ」



……。


…………。


そして順番が進み、私の番が来た。

サイコロを振る。3。

青いマス『花粉症もどきの呪い』

……花粉症って何だ。


青いマスだから、誰かに与える事が出来るが、ヨツバを見る。

まだ辛さに苦しんでいる、呪いを与えられない。

オリバーは『隣町へテレポート』を引いた。すぐ戻ってきたので呪いを与えられるが……睨まれた、怖い、やめよう。

ネルはニコニコしているが……肉球魔王様に睨まれた、ヤバイ、やめよう。


うーん、あ、この竜はどうだろう。



「そこの赤い竜さんで」


「キュオオオオン!(ぬぉおおおおお、急に涙と鼻水がーーー?!)」


『おい、オリバー君狙えよ』と文字が現れる。

ごめんなさい、そんな勇気ないです。


それと、この竜さんはフランベルジュという名前らしい。

歴史によれば確か、この辺は昔フランベル国だったな。

関係あるのだろうか。


先輩がくれた肉球魔王様のお気に入りリストにフランベルジュが入っていなかったのは、肉球魔王様がうっかりリストに書き忘れたからだとか。

あのリストは魔獣幹部用に作った物をコピーして先輩に渡した物らしい。

わざわざ人間国からのスパイに渡すとは、肉球魔王様はよほどの自信家なのだろうか。



◇ ◇ ◇ ◇



・人間国からのスパイ視点



もうすぐ3時間が経つ。

すごろくの制限時間だ。



「5以外! 5以外!

あ、あああああああああ!」



ヨツバは5を出し、赤いマス『20マス戻る呪い』を引いた。

なるほど、こういうマスもあるのか。


私は4を出し、赤いマス『ネコ化の呪い』を引いてしまい、黒猫になってしまう。



「にゃー(スパイ君、良かったな。これでネコ科言語が分かるようになったぞ。

おまけに他の呪いも効かない。ラッキーだな)」


「ぶみ(これ、治るんですか?)」


「にゃー(すごろくが終わったら治してやろう)」



治るのならいいか。

しかし、何だかとても眠い。

昼寝がしたい。



「よしッ! ゴールだッ!」



オリバーが1着。

サイコロはゴールまでピッタリの目でなくても良いらしい。


続いてネルが2着。

私は3着。

肉球魔王様が4着。

シルフが5着。


あとの者は時間切れ。

ヨツバは非常に悔しそうにしている。



「おめでとうございます~。あとはすごろくのご褒美を各自、貰いましょ~」


「にゃー(呪いポイントを交換したい、と頭の中で念じるといいぞ)」



肉球魔王様のアドバイスを受け、念じてみる。


――――――――――――――――――――――――

褒美を選んでください(残り呪いポイント100)

・電子通貨500万マタタビ(10ポイント)

・肉球魔王様の情報(50ポイント)

・肉体強化30レベル分(50ポイント)

・寿命延長20年(20ポイント)

・種族進化(100ポイント)

・スキル【呪いマスター】(100ポイント)

―――――――――――――――――――――――



「ぶみゅう(これは?)」


「にゃー(ポイントで色んな物やスキル、能力が入手出来る。ポイントは持ち越し出来ないから、使い切るといいぞ)」


「ぶみぃ(ということは、このすごろくを毎日すれば色々な物が手に入るのでは?)」


「にゃー(そう都合良くいかないな。1度使うと消滅するタイプのアイテムだから、もう無理だぞ)」



いつの間にか、テーブルにあったすごろくは消えていた。

世の中には不思議な事もあるものだ。


とりあえず、寿命延長を2つ、電子通貨500万マタタビを1つ、肉球魔王様の情報を1つ選択する。


頭の中に、肉球魔王様の事について情報が入ってきた。

……は? 肉球魔王様は神でもある、と?

この都市の地下に、ゴーレムの製造所が有る?

分かっている範囲の肉球魔王様の能力?


……。



「にゃー(言っておくが、呪いの神が把握している情報のみ、だぞ。

多分70%ほどしか無いと思うが)」



私が褒美に肉球魔王様の情報を選んだ事はバレているようだ。



「にゃー(地下施設の事は国家機密だ。それ以外なら喋ってもいい)」



私が人間国に帰った際、どこまで喋ってもいいか、という事だろう。


肉球魔王様は口止め料として、500万マタタビを渡してくれた。

ありがたい。


その後、肉球魔王様に森の外まで送ってもらい、解散となった。

その時にネコ化の呪いは解除してもらったが、後遺症でネコ科言語が首輪無しで分かるようになってしまった。

別に困らないからいいが。



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