425.【後日談3】潜入! 魔獣都市マタタビ その4


・人間国からのスパイ視点



肉球魔王様達に付いていきながら、彼が住んでいる森の情報を目に焼き付ける。

ここの植物は、見たことのない物ばかりだ。

肉球魔王様との約束により、採取出来ないのが残念だが。



「にゃー」



ドスッ!

私の足元に、赤いネズミが落ちる。

肉球魔王様が猫パンチではたき落としたらしい。



『バンパイア・マウスだな。俺が守らなかったらそのまま吸血されて干物になってたぞ』と宝石の板に文字が現れる。


「そのネズミの魔獣が?」


『俺が一撃で仕留めたから弱く見えるだろうが、下手なワイバーンより強いぞ』と文字が現れる。



そして肉球魔王様はフライパンを取り出し、ネズミの魔獣を乗せる。

魔獣は一瞬で焼ける。あのフライパンは熱を瞬時に生み出し肉を焼く魔道具だろうか。


肉球魔王様はフライパンを上に振りネズミ魔獣を宙に上げ、フライパンを仕舞いながら焼けたネズミをパクッと食べた。


そして私達は再び歩き出す。



……。



…………。



シュバッ!


私に飛びかかってきた虫の魔獣を、肉球魔王様は両手でキャッチする。



「にゃー」



またフライパンを取り出し、虫を串刺しにして焼き、焼けたやつを私に差し出す。

私は首を横に振る。

肉球魔王様はつまらなさそうに虫を食べる。



『今のは殺人イナゴ希少種だな。1匹で人間の町6つほど滅ぼすような奴だ。

弱いせいか、さっきから狙われすぎだな。

俺が森の魔獣達に命令して、お前を襲わないようにしておこうか』と文字が現れる。


「……お願いします」


「にゃー」



自分ではそこそこ戦闘は出来るつもりだったが、この森では私は弱者もいいところらしい。

素直に甘えることにした。


それから先は、私は襲われることはなかった。

どうやったのか知らないが、肉球魔王様は森の魔獣を掌握する手段を有しているらしい。


その肉球魔王様は途中でバッタを何匹か串に刺して、ウキウキしていた。


襲いかかっては来なくなったものの、目を光らせてこちらを見る猛獣に何度も出会った。

恐ろしい場所だ。



◇ ◇ ◇ ◇



・人間国からのスパイ視点



全員で森を進むと、堀に囲まれた塀が見える。


堀にかかった石橋を渡り、塀にかかったハシゴを登り降りする。



『ここが俺の自宅だ』と文字が現れる。



肉球魔王様の自宅! これは先輩でも入手していない情報だ!


木の上に家があり、庭にはかまど、丸太の椅子と机がある。

茶髪のエルフが庭で素振りをしていたが、こちらを見る。



「デブ猫ッ、その男は誰だッ!」


「にゃー」


「スパイ? 大丈夫なのかッ?」



ひぇぇぇぇえええ?! 肉球魔王様に対してなんて口を聞いてるんだこのエルフは?!


……いや、よく見ればお気に入りリストに載っている者だ、名前はオリバーと言うらしい。



「にゃー」


「そうか、なら心配ないなッ!」



そう言えば、肉球魔王様の鳴き声は翻訳されないのか。

この首輪を付けている者同士の会話が翻訳されるというらしいが、肉球魔王様の首輪は特別製なのだろうか。


肉球魔王様は、自宅の乗っている木で爪とぎしている白猫のリリーの方に歩いて、リリーに猫パンチする。

リリーが反撃するがかわす。リリーが飛びかかるがかわす。リリーが魔法スキルをバンバン放っているがかわしている。

アウレネがリリーを抱き上げた。



「仲良くしなきゃ駄目です~」


「みゅ~(あっちから殴ってきたにゃ! おいらは被害者にゃ!)」


「にゃー」


「みゅ~(どこで爪とぎするかは、おいらの自由にゃ!)」



私がオロオロしていると、肉球魔王様がこちらへ来る。

『すごろく大会が始まるまで時間があるし、俺の自宅で待つとしよう』と文字が現れる。

私は肉球魔王様とともに彼の自宅へお邪魔する。


肉球魔王様の家は落ち着いた木製の、素敵な家だった。

ただやたらと木箱が多かった。


肉球魔王様は、底の抜けた横倒しの木箱に向かって飛び込み、ズサーッと滑って満足そうにしていた。


『まあ座れ』という文字が現れたので席に着くと、菓子と果汁水を出された。

菓子はザッハトルテとか言う名前らしい。果汁水は桃の味がした。

とても美味だった。


その横で肉球魔王様はバッタの串を焼いてムッシャムシャ食べていた。

さすが魔王と呼ばれるだけあり、おぞましい物を食べている。

一口どうだ、と誘われたが丁重に断った。

ボリボリとうまそうに食べている。これにあとビールがあればなぁ、という顔をしている気がする。気のせいか。


しばらく待つと、人が揃ったらしいので、私達は家を出て木から降り、庭へ。


アウレネとオリバー、リリーの側にいる白髪の老婆は、確かシルフという人間。

チャールズという銀髪のエルフ。

ヨツバという名前の人間。

ネルという名前の人間。

チロチロという名前の蛇の魔獣。

赤い竜、これはリストに載っていなかった。

それらの者が新たに庭に集まっていた。



「よ~し、今からすごろく大会開始です~」



アウレネは庭のテーブルに、すごろくの紙を置いた。

……呪いのすごろく、と書いてあるが大丈夫なのか?!



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