423.【後日談3】潜入! 魔獣都市マタタビ その2
・人間国からのスパイ視点
夕方。先輩の家に招待された私は、出されたお茶と菓子を頂きつつ、先輩の話を聞くことにした。
それにしても、このクッキーは美味い。後でどこで買ったか聞いて、私も買うことにしよう。
私は先輩から、肉球魔王様の写真(精密なカラーの絵だが、絵師が描いたのではなく魔道具で描写された物らしい)を見せてもらう。
あぁ、あのカウンターで寝ていた猫だったのか。
よし覚えた。
なお、先輩に抱っこされて寝ていた白毛の三つ目なネコ科魔獣は、洗濯かごの中でスピースピーといびきをかいて眠っている。
先輩いわく夜まで起きないだろう、と。
「先に言っておくぞ。この魔獣都市マタタビで完全なスパイ活動は出来ない」
「何? 先輩、それはどういうことでしょう?」
「全部筒抜けだ。都市のいたるところに猫像があっただろう?
あれはただの飾りじゃない。あの周囲1kmの事全て、肉球魔王様は探知出来るそうだ」
猫は人間よりも耳や鼻、動体視力に優れるという。
ネコ科魔獣ならなおさら。
それに加えて独自の探知装置を都市に散りばめているとは。
かなり慎重な者らしい。
「もっとも、肉球魔王様以外は、それほど探知力は無い。
だからこの都市でも、犯罪や悪事の類は多少はあるにはある」
「?? 全て把握しているのなら、そんな事しても即座に捕まるのではないですか?」
「肉球魔王様が報告すれば、な。ただ、肉球魔王様はあくまで傍観を決め込んでいるらしい。
この都市の問題はあくまで、この都市の魔獣幹部を中心に解決するように、との方針だとか」
「ならスパイ活動に影響ないのでは?
肉球魔王様は関与してこないのでしょう?」
「そこだ。何事にも例外は存在する。
肉球魔王様の報告で捕まったスパイが6人ほど、都市の外の畑で
肉球魔王様のお気に入りの者に手を出そうとしたら捕まった。
肉球魔王様のお気に入りの者から情報を入手しようと接触したら捕まった。
肉球魔王様を害そうと準備していると捕まった。
肉球魔王様のお気に入りの者を害そうと準備していると捕まった。
雑貨屋クローバーで万引きしたら捕まった。
宿屋……名前を忘れたが、確かナンシーという者が居る宿屋で情報を探ろうとしたら捕まった」
「ちょっと待ってもらえますか先輩。囚人から話を聞けたのですか?
それもスパイ活動についての話を。普通は……」
「あぁ、人間国ならまず許可は降りないだろうな。
連中はよほど自信があるのか、それとも抜けてるのか。
とにかく、肉球魔王様は自身や、彼のお気に入りの者の生活を乱されるのを嫌っている。
ここにそのお気に入りの者達の名前と特徴を書いたリストがある。注意するように」
先輩からリストの紙を貰う。
私はそれを手に取って眺める。
「……先輩、これ、報告に使ってもいいですか?」
「いいぜ。どうせ俺はスパイは引退したからな」
「えっ? 何故です?」
「考えてもみろ。
この魔獣都市マタタビ、税金が全く無い。義務はせいぜいネコ科魔獣の世話だけ、徴兵義務も無い。
人間国だったら、どこに行っても税で半分くらい持ってかれるし、徴兵義務もある。
この魔獣都市マタタビで簡単に治る病気で、人間国だったら死ねる。
この魔獣都市マタタビですぐ手に入る魔道具もお菓子も、人間国では貴族の一部しか入手出来ない。
さぁどっちに住みますか、って話だ」
「この魔獣都市マタタビがどうやって成り立ってるのか不思議です……」
「あぁ、確か人間国にはその情報はほとんど無いんだっけか。
俺以外にもスパイは居たはずだが、あいつらも俺と同じく人間国を裏切ったんだろうな」
「……」
「人間国の法に
だったら俺は外に逃げて助けを呼ぶぜ?」
先輩はナイフを構える。
逃げるなどと言っているが、隙が全く無い。
私が襲ったところで返り討ちだろう。
「いえ。ただ、スパイ活動に役立ちそうな資料があったらください」
「いいね。お前は長生きするぜ。
その棚の黒い本、それを持っていきな。
この魔獣都市マタタビを見限る時に持ち逃げするための資料だが、どうやら当分は役に立たなそうだからな」
「頂戴します」
紐で
「さて、せっかくだから今度は俺が、人間国の様子でも聞くか。最近どう?」
先輩はスパイを辞めたと言ってるが、自分達の国の名前を出さなかったりと、まだ癖は抜けてないらしい。
私は出発前の国の様子を伝えたが、約1ヶ月前の情報なので、多少古い。
「……俺の持ってる情報の方が新しいみたいだぞ。
人間国の国のトップは、肉球魔王様によって入れ替えられたと聞いた。
近い内に国の名前も変わるかも、って話だ」
何で魔獣都市マタタビが、遠い人間国の情報をバッチリ把握してるんだ。
人間国の諜報機関が劣っているのか。
私は先輩が持ってる情報以上の事をほとんど出せず、先輩の面倒をみているネコ科魔獣が起きたので話を終えた。
そして私は先輩と別れ、夜に行われている魔獣幹部の会合とやらを覗くために、宿の自室で先輩から頂戴した本を読みつつ時間を潰す事にした。
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