415.【後日談3】劣化アカシック・レコード


ここは魔獣都市マタタビ中央広場。

今日は付近から来る商人達へ、電子マネー『マタタビ』の説明をすることにした。


ちなみに昼間なのでネコ科魔獣はごめんなさいポーズで眠っている。

何でわざわざ眩しい場所で眠ってるのか知らないけど。


説明はヨツバが行う。

雑貨屋の他の従業員は、まだ仕組みをよく理解していないので。



「つまり、サーバーという魔道具が雑貨屋クローバーの中に置かれていて、首輪を通してサーバーと金銭のやり取りをする、というわけですかな?」


「大まかには、そうです」


「首輪は、魔獣都市マタタビ以外でも使えるのですかな?」


「この世界全域をカバーしてるので、基本的にどこでも大丈夫です。

世界をまたいた場合はさすがに無理ですが」


「世界を、またぐ?」


「いえ、何でもありません」



雑貨屋クローバーに置いてあるサーバーだが、首輪装着者を識別、監視する機能もある。

なので、誰かの首輪を盗んだりしても無意味だし、むしろそれをすると盗んだ者は即通報される。

また、首輪のサイズが合わなくなっても気軽に交換出来る。


サーバーには、この世界全ての者のデータが入っていて、データは絶えず更新されている。

鑑定神ソフが持つアカシック・レコードの下位互換だ。


首輪にはサーバーへデータを送る専用のチップが埋め込まれていて、そのチップ以外は別に重要ではない。

なので好きな首輪を使ってオシャレする事も出来る。

ただ、ネコ科魔獣はオシャレに興味が無いのか、ほとんど皆、俺が最初に配ったシルバーの首輪を付けてる。


チップに関しては、ゴーレムに地下で量産させている。

魔獣都市で使うだけなら最初に配った分だけでほとんど足りるのだが、電子マネー『マタタビ』の噂を聞きつけた商人が、他の都市や国に広めたいと言い出したので、試しに配ることにしたのだ。

流行るならそれでよし。流行らなければそれもよし。



「あぁ、ついでに、この首輪を付けてる者同士で翻訳機能が使えます。喋ると、宙に翻訳が表示されますよ」


「「「おおーーっ?!!!」」」



これも鑑定神ソフが配布してる【言語理解】なるスキルのモノマネだ。

なお【言語理解】スキルを使った場合、鑑定神ソフにその内容が筒抜けになる。

それと同じく、会話内容もサーバー内に記録され、善用も悪用も出来てしまう。


商人達は、まだその恐ろしさに気づいていなくて、人間語が話せない者とも気軽に商売出来るぞ! と喜んでいる。

呑気な奴らだ。知らないってのは、ある意味幸せな事なのかもしれないな。


俺もヨツバも、このチップは付けていない。

サーバー管理者権限で、付けなくても機能は全部使えるし、逆に相手の機能制限をする事も出来る。


それにしても、たったこれだけの機能でも結構大掛かりな仕組みが必要なのだな。

鑑定神ソフが管理してるアカシック・レコードは、さぞかし管理が面倒に違いない。



◇ ◇ ◇ ◇



・オリバー視点



俺は森で、剣を研いでいた。


思い出すのは、昨日の事。


ヨツバが俺にチョコレートというお菓子を渡し、恋仲になりたいと言ってきた。


俺としては、彼女は幼子おさなごのイメージが強いので、どうやっても恋愛対象と見る事は出来なかった。


だが、断った理由はそれだけではない。


俺には、妻が居る。

いや、居た。


デブ猫が言うには、もうこの世界に居ないらしい。

別の世界に転生して、元気に生きてるから心配するな、と。


もう一度、彼女に会いたい。


早く向こうの世界で生を終えて、こちらの世界へ転生して欲しいと願うのは、自分勝手なのだろう。


だが、それでも……



「オリバーはん、それ、剣、研ぎすぎちゃうの?」


「むッ! しまったッ!」



チャールズの素人目でも分かるくらい、剣がいびつな形になっていた。

考え事をしながら手入れをするのは良くないな。


リオンに頼んで、打ち直してもらわねば。


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