414.【後日談3】事実無根


・リオン視点



俺は午前中の鍛冶の仕事を終え、近所の酒場へと立ち寄る。

お酒を飲むためだ。


猫の旦那は『お酒は二十歳になってからだぞ!』と飲酒に厳しく、この国では二十歳未満の人間の飲酒は禁止されている。ネコ科魔獣は飲酒自体禁止らしいけども。


俺は肉体は18歳相当らしいが、俺は100年間分ダンジョンで猫の旦那と過ごしたので、実質118歳だ。なので問題なく飲酒出来る。


酒場に入り、いつもの安酒とお任せメニューを注文する。



「おう、ドワーフの兄ちゃん。今日は魚肉ソーセージが入ったぜ」



店主が、魚肉ソーセージ入りのパスタをカウンターに置く。

パスタを頬張る。伸びきっている。

作り置きして時間が経っているせいだろうな。


酒場の店主が作る料理は、大雑把だ。

食べられば何でもいい俺は気にしないけれど、シャムさんは気にするだろうな。

シャムさんは元王宮料理人で、味だけでなく盛り付けも気を遣う人だし。


シャムさんといえば、この間チョコレートなるお菓子を開発していたっけな。

猫の旦那に聞いてみると、少し苦くて甘いお菓子らしい。

何で開発前のお菓子の味を知ってるんだ、ってツッコミをいれると、食べたことがあるかららしい。

ヨツバお姉さまは、チョコレートはネコ科魔獣にとって毒とか言ってたけど、猫の旦那に食べさせたのか?


さらに猫の旦那によれば、チョコレートは意中の人に渡す物らしい。


でも、ヨツバお姉さまとシャムさんはチョコレートを互いに交換してたけど。

何でだ?


……、……ハッ?!

もっ、もしかして二人はそういう関係?!



「ドワーフの兄ちゃん。酒が止まってるぜ。考え事か?

何なら俺に相談してもいいぜ?」


「実は……」



◇ ◇ ◇ ◇



・トミタ視点



宿屋の管理人室にて。

サバさんと俺で団子になってくつろいでいると、ヨツバがやって来た。

何やら怒っている様子だ。



「猫さんですか? 私がシャムさんと同性愛者だって言いふらしてるのは!」


『何のことだ』とエメラルド板に刻む。


「すぴー、すぴー」



なお、サバさんは夢の中だ。



「誰かが私達の事を同性愛者だって、噂してるんです!

そのせいで雑貨屋クローバーに来る女性客が、私とシャムさんに引いてるんですよ!

これは悪質な営業妨害です!」


『別に同性愛者だから何だ、って思うけどな。

だが地球と違って、この世界だと差別とか多いかもなぁ』と刻む。


「すぴー、んむー」


「だから事実無根ですってば!

私は普通に男性のイケメンが好きですから!」


『騒ぐな。サバさんが起きる。今、犯人を調べてやるよ』と刻む。



各地に設置した猫像には、過去の映像や音声も記憶されている。


それを、噂に関する情報を抽出し、統合する。


ふむふむ。



『リオン君の勘違いで、酒場から広まったらしい』と刻む。


「ちょっと締めてきます」


『まぁ待て。一緒に昼寝でもしようか』と刻む。


「何を呑気な……うっ、急に眠気が……」



ヨツバをスキルで寝かせる。

怒っている時は、冷静さを失うからな。

いったん時間を置くのが良いだろう。


俺はヨツバとサバさんにくっつき、転がりながら横にびよーんと体を伸ばす。

今日は良い天気だ。昼寝がはかどる。


がちゃり。

ネルとナンシーさんが管理人室にやって来た。



「ヨツバー、おやつが出来たわよー。

あら、猫さんとサバさん。一緒にお昼寝してるの?」


「にゃー(俺は起きてるぞ)」


「すぴー、すぴー」


「ZZZ」


「猫さんのおやつもあるよー」


「にゃー(なら食べるか)」



俺は二人についていった。

おやつはネコ科魔獣用魚肉ソーセージだった。


二人は俺の食べているのと同じソーセージが入った焼きそばだ。

俺はいいけど、人間にとってそのソーセージ、味薄くないか?


その後、ヨツバはリオン君に「シャムにあげたのは、友達に渡すためのチョコ、友チョコであって、本命じゃないです」と弁解。リオン君の誤解を解く。


リオン君に渡す予定だったチョコは、白けたのでオリバー君にプレゼントしたらしい。

まぁ彼はやんわりと断ったみたいだが。


そして噂は数週後、自然と消失した。



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