411.【後日談3】いい猫



翌日。

ここは森の開けた場所のうちの1つ。


元4属性ゴーレム、今は神獣となった4体。

燃える鬼、氷の河童、アダマンタイトの大坊主、嵐の天狗。


彼らは、そこで気を失っていた。



「にゃー(俺が旅行している間に、自分達の魂に埋められた叛逆の芽に気づいて、それを自分達で取り除こうとして失敗、ってところか)」



魂関連のスキルを所持せずに魂の加工をするのは、道具無しで大工仕事をするようなものだ。

十中八九失敗する。


失敗すれば、魂が損傷する。

体に例えるなら、大きな切り傷から大量出血を起こすようなものだ。

命に関わる。


今は気を失っているだけだが、あと数ヶ月で死んでしまうだろう。

魂の損傷が著しいので。


というわけで、【魂修復】を使って応急処置してやった。

ついでに、叛逆の芽にあたる魂の一部は削り取って、ハーディス様に送っておいた。

一応、ハーディス様の大事な経験値源だしな。



『……。…………ハッ?!』


「にゃー(おはよう)」


『肉球魔王様、自分達は……』


「にゃー(まーた報告無しで、危ない事したらしいな)」



4属性神獣は、俺に思念を飛ばしてきた。

思念はMPを使うし、傍聴されるから俺はほぼ使っていない。


こいつらには火車から、仕事のホウレンソウを教えさせたはずなのだが。

どうやらまだ指導が足りないらしい。



「にゃー(というわけで、ちょっと命(まこと)君のダンジョンに行って、仕事について勉強してきてもらおうか)」


『そ、そんな、せっかく進化して役に立とうと思って待っていたのにそれは……』


「にゃー(勝手に危険な事して、俺に手間をかけさせたお前らが何だって?)」


『……勉強しに行って来ます』



4属性神獣はワープしようとしたが、俺が止めた。



「にゃー(相手に連絡せず突撃する奴があるか。

俺がメールするまで待て。あと手土産も持っていけ)」



俺は4体に、旅行で買った珍しいゲームの詰め合わせと、お菓子等の詰め合わせの入った袋を渡す。


メールで命君に、ダンジョンの配下達を用いて4属性神獣へ仕事の指導をするようにお願いした。

めっちゃ厳しくするように念押しした。

俺や魔獣幹部では指導が甘すぎたからな。



『では行ってきます』


「にゃー(お菓子とゲームは繊細だから、衝撃を与えないように運べよー)」



俺は4属性神獣を見送った。



◇ ◇ ◇ ◇



・ある人間国に召喚された男視点



俺は事故で死んだと思ったら、女神様に異世界転移させられた。

好きに生きていいと女神様に言われたので、好きに生きるつもりだ。


で、召喚先は城の王の間。

王様はこれでもかと魔獣国の事を罵り、俺に人間を救って欲しいと懇願してきた。

具体的には、魔獣国チザンに住む魔王を討伐して欲しいとのこと。

魔王のせいで、人間国は貧困に苦しんでいるらしい。


他に転移した人が3人居たので、城の1室を借りて話し合いをする事にした。

彼らも、俺と同じ女神様に転移させられたそうだ。

この世界が異世界の中でも比較的安全で、現地の神様も優しいとのことだ。



「で、どう思う?」


「何の事かしら?」


「いや、魔王を討伐しろって王様が言ってたじゃん。

俺たちが命をかけてそれをする義理はあるのか、って」


「確かに」



俺を転移してくれた女神様には感謝しているが、この国に対しては特に恩はない。

ってかさっきの晩餐会の食事、クソマズかったんだが。

王様達も同じの食べてたし、よほど食事文化が貧しいんだろうか。



「とりあえず、俺のスキルで魔獣国チザンの魔王ってのを覗いてみるか。

スキル発動、【千里眼】」



俺のスキルにより、映像が壁に投影される。


何だこれ、夜の町で大小様々な猫が走り回ってる。



「……猫の運動会か?」


「夜中に元気になるんだったか」


「これ全部魔獣なの? というか魔王ってどこよ」


「この映像のどこかに写ってるはず」



映像を見てると、大人しくしていた茶トラの太い猫が振り向き、『何か用?』と文字が書かれた緑の宝石の石版を取り出した。



「私達が覗いてるのがバレてるわ。えーと、こんにちは?」


「このスキル、覗いてる事は相手に気づかれないはずなんだが……あと声も届かないはずなのに」



だが、映像の石版の文字が『今は夜だから、こんばんは、だな』と変わった。

どうやらこちらの声も筒抜けらしい。


魔王様はどちらでしょう? って聞くか?

いや、素直に教えてもらえるとも思えな「あなたが魔王なの?」おおぃ?!

何ストレートに聞いてるんだよ?!



『一応そうだが何か?』と石版の文字が変化する。

えっ、魔王って猫なのか?

普通は人間の、のじゃロリ幼女じゃないのか?!


俺が驚いてる間に、他の3人は魔王に次々に質問を行っていた。



「何で猫なの?」『悪いか』


「魔王って何だ?」『称号の1種かな』


「人間国と仲が悪いの?」『そっちが一方的に嫌ってるだけだぞ』


「戦争するつもり?」『攻めてきた奴には相応の報いを与えるが、面倒だから来るなよ?』


「今何してるの?」『のんびり横になりつつ、雑貨屋クローバーの仕入れの確認』


「雑貨屋って何だ?」『俺とヨツバで経営してる雑貨屋。そっちに情報無い? マジか、人間国の諜報員は何やってんだ』



……思ったより魔王がフレンドリーな件。

あと別に魔王は人間と対立するつもりはないらしい。

人間国が貧困なのは単に、食糧生産能力が乏しいのに子どもを産みすぎてるからだとか。


魔王としばらく話していると、俺のMPが尽きて【千里眼】の映像が切れた。

そしたら『困った事があったら、これに祈るといいぞ』と書かれた手紙と木製の小さな猫像が現れた。

魔王マジいい人、いやいい猫。


その後、俺たちは王城から抜け出し、人間国の各地で食糧問題を解決するために奔走ほんそうすることとなるが、それはまた別の話。

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