401.【後日談2】【クロスオーバー(メニダン)】鑑定神は再度閉じ込められる



夕食も食べたことだし、あとは寝るだけだ。


ヨツバは結局、今日1日何も食べなかったな。


さっきからナンナーンがヨツバのほっぺをペロペロしているが、それを無視して寝ている。

ネコ科の舌はザラついて痛いと思うのだが。


おっ、とうとうキレて四次元空間でナンナーンを飛ばした。


だがナンナーンは四次元ワープで戻ってくる。

ほぅ、俺よりもワープ上手いぞ。

さすがニンジャ。



「ナンナーン(あの子、元気ないねー)」


「にゃー(放っておいてやれ。嫌なことがあって気分が優れないんだ)」


「ナンナーン(そういう時は、美味しい物を食べるといいよ!

鳥のお肉をプレゼントしようか!)」


「にゃー(やめぃ)」



ナンナーンがスズメの死骸を四次元空間から取り出し咥え、ウキウキしながらヨツバの所へ持っていこうとするのを止めた。

人間はそんな物貰っても食べないし喜ばないぞ。



「にゃー(というか吐いた後だけど、気分は大丈夫なのか?)」


「ナンナーン(平気ー。食べ過ぎたみたい)」



どうやら胃もたれして吐いたようだ。

俺と同じ分量でキャットフードを与えたのは良くなかったな。



「ナンナーン(あっ、そろそろ弥生やよいさんが帰る時間だー。

じゃーねー)」



弥生さんって誰だ。

飼い主か?


ナンナーンは四次元ワープでどこかへ行ってしまった。

ネコ科とは自由な生き物だな。


まあいいか。

そろそろ鑑定神ソフがゲロ掃除終わらせている頃だ。


俺はソフ入り魔道具を取り出す。



「にゃー(おい)」



……。



「にゃー(聞こえてるんだろ?)」



……。


…………。


……だんまりを決め込むとはいい度胸だ。


俺はお土産のくさやを取り出し、カセットコンロで炙(あぶ)る。

う~ん、いい香り。


【結界】を使用し、俺の周りに臭いが閉じ込められるようにする。


【強化加速度操作】で臭い入り空気を操り、ソフの元へと送り出す。



『おぇっぷ! いきなり何をする?!』


「にゃー(無視したのが悪い)」


『外部と話すのもタダじゃないんだぞ!

そもそもネコ科の話を聞くには【翻訳】スキルを使う必要があるが、常時発動してるわけじゃないんだ!

俺に何の用だ!』


「にゃー(お前の処罰を決めておこうと思ってな)」


『処罰だと? まるで俺が何か悪い事したかのような言い草だな?』



自覚が無いあくというのは、タチが悪いな。



「にゃー(死者の冒涜(ぼうとく)は、ハーディス様が最も嫌う事だぞ?

お前確かハーディス様ファンクラブじゃなかったっけ?)」


『冒涜? 俺が? いつの話だ?』


「にゃー(リバース・インテリジェンス計画の事だ。

ゲーム世界の中に、過去の人間の記憶をAIとして閉じ込めるなんて、冒涜でなくて何だ?)」


『あぁ、そんな事か』



そんな事とは何だ。



『ハーディス様が管理しているのは、あくまで本物の魂だけだ。

魂というのは、肉体が得た経験を蓄積、保存するいわばハードディスクのような存在。

同時に魔力を生み出す発電機のような存在でもある。

さて、リバース・インテリジェンスで使用している人間の記憶はどうだ?

経験を保存しているのはサーバーであってその人間の記憶ではない。

同時に魔力を生み出したりはしない。

よってハーディス様をはじめとする冥王様達の定義する『魂』とは異なる物である』



長々と講釈を垂れるのは、鑑定神らしいといえばらしいが。

要は『俺が実験で使ってるのは魂じゃないから問題ありませーん』ってことを言ってるだけだ。



『で、俺がいつ魂を冒涜したと?』


「にゃー(魂の話をしてるんじゃない。

俺は、生きていた人間の記憶を、お前の興味本位の実験に使うのは道徳に反すると言ってるんだ)」



俺は前世では研究職に就いていた。


当然、研究に関する規約や道徳観念については学生時代から耳にタコが出来るほど教えられている。



「にゃー(たとえ死んだ者だとしても、たとえそれが魂を伴わない者であったとしても、彼らには彼らの人権がある。

お前がやっている事は、ユダヤ人さらいをして彼らを実験動物扱いしている、ナチスと変わらないぞ)」


『ふん、ただの精神論か。

いいか? 俺が使った記憶は全て、生前に『実験等で使用しても良い』と許可を得た者の記憶だけだ。

当然法律は守っているし、本人の許可を得ているから倫理規定に触れることもない。

人権と言うが、彼らは法律上は『物』扱いだ。だからそもそも人権など生じない。

トミタ、お前のように感情論で実験に反対する有識者が居るから、国は秘密裏に実験を行っているが。

俺から言わせてもらえば実験は堂々と表立って行ってもいいと考えている』



ああ、駄目だ。

コイツは法律さえ守れば何やってもいいんだろ? 的な考えの持ち主だ。


命に対して敬意を払わず、平気で『物』扱いするタイプだ。



「にゃー(傲慢ごうまんな意見だな)」


『傲慢せずして、何が神か!』



開き直りやがったぞ。


コイツは、実験動物扱いされている人間の気持ちを微塵も考えていない。

それじゃあ研究者失格だ。


仕方ないな。

荒療治あらりょうじといくか。


俺はソフ入りボールを持って、『メニィ・ダンジョンズ・オンライン』のサーバー室へと四次元ワープした。



『ん? 何をするつもりだ?』



ソフ入りボールをまたぐ。



「にゃー(妖術。【猫またぎ】)」



どれどれ、カルマチェック。


殺戮62563に盗魂0。

意外と少ないな。


まあいいか。



「にゃー(1000年間、閉じ込めの刑だ)」


『何っ?! ま、まさか、や、やめろぉおおおおお!』



鑑定神ソフをサーバーの中に閉じ込めてやった。


ついでに脱出できないように、監視にホムンクルスを10体ほど付けた。


望まない世界に閉じ込められ、死ぬことすら許されない空間。

そんな場所に閉じ込められる気分を、自身が味わうといいだろう。


これで少しは実験動物扱いされた人間の気持ちを理解してくれたらいいのだが。

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