373.【後日談2】【クロスオーバー(メニダン)】話し合いの下準備
ニールに乗ってしばらく森の中を進むと、森を抜けて平原に出た。
くんくん。
肉を焼く良い香りがする。
「にゃー(あっちに行こう)」
「キシャ?」
えっ? マジで?
みたいな顔をされた。
「にゃー(肉の香りの他に、8人の人間の臭いもする。
馬の臭いと、作物の臭い、金属の臭い、それから陶磁器の臭い。
戦う人間にしては、必要以上の物が多すぎる。
多分商隊か何かだと思うぞ)」
「キシャァァアアアオオオオーーー!」
ニールは渋々、俺の命令に従い、臭いの方向へと向かう。
ニールの懸念も分かる。
普通だったら、魔獣は人間の前に姿を表せば殺される。
俺も魔獣扱いされるだろうし。
「にゃー(だが、安心しろ。俺はドラゴンの6倍は強い)」
◇ ◇ ◇ ◇
・ロマジェブルクの町の外にて
そこには馬車が3台停まっていて、男が8人焚き火を取り囲んでいた。
「乾杯!」
商人のパズズは、護衛に雇った冒険者達6人に、酒と料理を振る舞った。
肉は、冒険者が自由時間に狩ったキラーボアを、豪快に焼いた物だ。
町は目と鼻の先に有るのだが、夜には門が閉まっているため、こうして外で朝になるのを待っているのだ。
こんな場所には盗賊など現れないし、万が一現れたなら、町の門番の元へ駆け込み、応援要請すればいい。
「うんめぇっ! パズズさんの秘伝のタレを使った肉の丸焼き、最高っ!
パンが止まらねぇっ!」
「この料理のために依頼を受けたと言っても過言ではないからなぁ!」
「喜んでもらえて、嬉しいですよ。
黒鉄(くろがね)、あなたは飲まないんですか?」
「いい。酒で体が鈍るといけないからな」
「かーっ! ドラゴンスレイヤー様は真面目だねぇ!」
黒鉄と呼ばれたその男は、パズズの専属護衛だ。
その剣の腕は、強力な魔獣であるドラゴン
商人と冒険者達がこうして気を抜いているのも、この男が居るからこそである。
「……? 何か近づいてくる」
黒鉄は剣を抜く。
冒険者達も、酒のカップを置き、武器を取る。
ドスン、ドスン、ドスン。
「キシャァァアアアァァゥゥウウウーーー!」
「にゃー」
黒い亜竜。
と、その上に乗っている猫。
森に住む魔獣とは明らかに毛色が異なる亜竜。
それに乗り、指示する猫。
そこから導かれる結論は、
「あの猫、ダンジョンマスターか!」
ダンジョンマスター。
ダンジョンで魔獣を飼い、人類を害する存在。
魔獣をあまり連れていない弱いダンジョンマスターなら、冒険者が数人居れば対処出来る。
だが、相手が大群を連れている場合は、最悪町が滅ぼされる。
「パズズさん、黒鉄さん! 今すぐ町へ応援要請を!
ここは俺達が食い止めます!」
冒険者達が、亜竜へと向かった。
「黒鉄、門へ急ぎましょう」
「はい、パズズさん」
◇ ◇ ◇ ◇
「にゃー(こんにちは)」
人間のうち2人は町の門へ向かい、残り6人が、俺達を囲っている。
警戒されているらしい。
「にゃー(言葉通じる?)」
「撃て!」
俺達へ、矢が放たれる。
俺もニールも、そんな物、通用しない。
「くっ、固いぞコイツらっ!」
「刃物も効かないかもしれない!」
「ならば鈍器で!」
言いつつ、人間が剣に付いているスイッチを押すと、ハンマーへと変形した。
何あのロマン武器。カッコいい。
「これはお前達ダンジョンマスターから奪った武器だぁっ!
俺達はその辺の雑魚とは違うぞ!」
ふむ、奪ったとな?
俺は地面に降り、前足で地面に文字を書く。
『窃盗は良くないぞ。今すぐ持ち主へと返すように』と。
「黙れ、人類の敵が!
お前達が行ってきた略奪行為に比べれば、このくらい可愛いものだ!
ダンジョンマスターが世界に現れてからというもの、世界中で殺しと略奪が急増した!
そのせいで、毎日餓死する者だって居る!」
この世界の住人は、プレイヤーによって、こっぴどく搾り取られている。
なので、親の仇みたいにダンジョンマスターを毛嫌いしている。
勘違いしないで欲しいのだが、コイツらは死んでも教会にて蘇る。
このゲームでは、命の価値がとても低い。
それ故に、盗賊団も真っ青の殺戮、略奪が、プレイヤーによって行われている。
なにせ彼ら、町を丸ごと1つ盗っちゃうからなぁ。
そんな連中と一緒にしないで欲しいのだが、まあ無理だろうな。
「覚悟しろ!」
人間が、鈍器を俺に振り回してきた。
鈍器には、麻痺毒が塗られている。
あれならプレイヤーを生け捕りに出来るな。
プレイヤーが死ねばダンジョンにて蘇生されるから、彼らからすればプレイヤーは殺す訳にはいかないのだ。
そして、プレイヤーを拘束して幽閉し、精神的に痛めつけ追い込み、ゲームを辞めさせる。
それがゲーム内の住人が出来る、唯一のプレイヤーへの対抗手段なのだ。
だが無意味だ。
俺は両前足で、地面を叩く。
ドオォォオオン!
「うっ?!」
局地的に震度6強の地震を起こし、彼らを地面に這いつくばらせる。
右足だけでこれをすると町まで揺れてしまうので、左足で上手いこと町の方へ揺れが起きないように調整したのだ。
「にゃー(今のうちに拘束しておくか)」
倒れている彼らの馬車の中に、丁度良いロープがあったのでそれを拝借。
人間達を縛り、大人しくさせた。
やがて揺れが収まる。
半径100mくらいの木が全部倒れていたり、地割れが出来ていたりと酷い有様だが、まあいいだろ。
さて、これでじっくりと話し合いが出来るな。
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