368.【後日談2】【クロスオーバー(メニダン)】キャットフード・ソムリエ


俺は、駅前にあるペットショップにやって来た。


この店の店主は、ネットではキャットフード・ソムリエと呼ばれている。


今まで食欲が無かった猫が、沢山食べるようになった。

実は病気だったのを発見してくれた。

食事を変えたら、健康診断の値が良くなった、等々。


元々は店に来た客の相談に乗っていただけなのだが、評判が良かったので、今ではカウンセリングのためにわざわざ時間を作っている。


今日も、その店主の元へ、キャットフードの相談をするために列が作られている。

おおよそ10人くらいか。


俺も列に並んだのだが、店員の1人に持ち上げられた。



「すみませーん、お客様の中で、茶トラ猫が迷子になっている方はいませんかー?」


「にゃー(俺は飼い猫じゃないぞ)」



首輪型PCで、『俺は客だ』と打つ。

打った文字は、近くの床に投映される。



「えっ?! 高次知能生物?!

いや、猫型の高次知能生物なんて聞いたことないし……」


『離してくれ』と打つ。


「わぁー! 凄い、すごーい!

可愛いー!」



テンションが上がった店員は、俺を持ち上げたまま店長の所に持っていった。

いや、離してくれよ。



「店長、店長ー!

見てください、猫型の高次知能生ぶ……いたっ?!」



店長と呼ばれた、目付きの悪い女性は、店員の顔面にチョップを入れた。

衝撃で俺は落とされたが、問題なく着地する。



「申し訳ありません、うちの馬鹿が失礼致しました」


「馬鹿って何よー!」


「あんたね……高次知能生物の方々へは、人と同等以上の扱いをするように通達されているのを知ってるわよね?

それを勝手に持ち上げて、あげく珍獣を自慢するように見せびらかして……自分が同じことをされたら怒るでしょう?」


「むー」



店長の所に並んでいるお客さん達が、ざわつき、俺を見る。

俺はもう一度列に並び直した。


前に並んでいる人が抱えている、キャリーケース内の猫が話しかけてくる。



「なー(眠いなん)」


「にゃー(寝ればいいじゃん)」


「んな(これから食べ物を買ってもらうなん。

頑張って起きてるなん)」


「にゃー(そうか)」


「ちょっと、うちのジョニーに話しかけないでちょうだい!

汚いノミやダニが移るわ! シッシッ!」


『先に話しかけたのは、おたくの猫なんだが』と首輪型PCでタイプする。



ちなみに俺の体にノミやダニの類は居ない。

ホムンクルス達がそんな奴らの接近を許すはずもない。



「高次知能生物の猫さん、写真撮っていいですかー?」



お客さんの中には、俺に好意的な人も居るらしい。

というか、俺の前に並んだオバサンが性格キツイだけなのかもしれないが。


俺はリクエストに答えてポーズとったり、一緒に写ったりした。



「ネットに流してもいいですかー?」


『どーぞ』と首輪型PCで打つ。


「わーい!」



そうこうしているうちに、俺の番になった。



「……先程は申し訳ありません。

お詫びに、キャットフードの料金は20%引き致しますので」


『いや、対価はきちんと払うぞ。

それが作ってくれた人に対する礼儀ってもんだ』と打つ。


「はぁ、ありがとうございます。

では、始めますね」



彼女のカウンセリングは、最初は食の悩みから始まり、普段の食事を始めとする生活、病気を持っていないかの問診。

あとはペットの猫の好みの傾向、例えば硬いのが好き、柔らかいのが好み、魚系か肉系か、ドライかウェットか、など。


ペット本人が居る場合は、飼い主に候補のキャットフードをお試しで渡し、その場で食べさせたり、持ち帰って食べさせたりする。

あるいはペットの反応を見て、良さそうなのを選別する。


といったことをするらしいのだが。



「ふーむ、肉や魚の好みは特になし。

歯ごたえがある方が好み、ウェットは食べない。

マタタビは好まない。ドライか現物を食べる。

糖尿食・腎臓食は必要なし。なるほど……」



店長さんは倉庫へ行き、ガサゴソと漁って、戻ってきた。



「こちらの5種類ほどが候補になりますが、いかがでしょう?」


「にゃー(美味しそう)」


『味見させてくれ』と打つ。


「どうぞどうぞ」



まず1つ目、ぱくっ。


お、おおおおおお!


何だこれは、濃厚で香り豊か!

それでもって、肉のようなシャキッとした食感!


よ、よし。次だ。

ぱくっ。


あぁ~……。


マグロの切り身の中に漂っているような、海の幸の味……だが塩は入っていない。

魚好きにはたまらないな、これは。


ならばこっちは?!

ぱくっ。


ほぅ。


肉と魚をブレンドした感じだな。

互いが互いの味わいを邪魔せず、まるで協奏曲を奏でているような優雅な、そんな感じ。


次はこいつだ!

ぱくっ。


む、むむむ!


1つ目のよりも噛みごたえがあり、癖が強い!

だが、それが良い。まるで野生で狩った獲物の肉をすぐに貪っているような、ワイルドな味わい!


最後はどうだ?

ぱくっ。


白身魚ベースのさっぱりした味わいと、アクセントのカツオが良い!

あぁ、焼き魚が食べたくなる……


次は……って、もう5種類試したのか。



「どうでしょう?」


『全種類、購入で』と打つ。


「え? 高いですよ?

それに賞味期限もありますし」


『問題ない』と打つ。



四次元空間内の倉庫区画の時間は、停止状態がデフォルトなので、そこに入れておけば大丈夫だ。



「それと、言いづらいのですが、袋に記載されている分量を守ってくださいね。

……食べ過ぎると良い物も毒になりますので」


『あぁ、注意するよ』と打つ。



店長さんは、俺がメタボ体型なのを気にして、やんわりと注意してくれた。

いい人だなぁ。

俺は分量守らない、悪い猫だが。


俺は1kgの袋を3袋ずつ5種類、計15袋購入し、ウキウキ気分で店を出た。



◇ ◇ ◇ ◇



・□□大学AI開発部名誉教授XX氏の婦人視点



夫は、家を出る前、大きな商談があると言っていた。


その夫は、近所の公園で遺体となって発見された。


凶器はコリン系の薬物。

誰の仕業か、警察は調査中だと言う。


でも、私は知っている。

夫は、とあるホテルに入ったきり、表口から出てこなかった。


その2時間後だ、遺体が公園で見つかったというのは。


それを警察に言っても、取り合ってくれなかった。


まるで何かを隠しているかのように。



◇ ◇ ◇ ◇



・ある神視点



……困ったね。


予定では、あの男は、寿命を全うするはずだったのだけれど。


あのネコ科の神のせいで、歴史の流れが少し狂ってしまった。


で、私の計算だと、あと数時間で、ネコ科の神と、リバース・インテリジェンス計画実行者が出会ってしまう。

それも敵対という形で。


そうなれば、いよいよ歴史の流れが変わってしまう。


私は、ネコ科の神へメッセージを送った。


『あなたは間接的とはいえ、私の世界の人の子を殺した。

これ以上そのような事をするというのなら、こちらにも考えがある』


本当は考えなどない。

だが、たかがネコ科の神、それも1000年程度の歳歴の分際ぶんざいで私に歯向かうほど、向こうは馬鹿ではないだろう。


反抗するのであれば、相応の報いを与えてやればいい。


この世界の歴史は、私の計算通りでなければならない。

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