369.【後日談2】【クロスオーバー(メニダン)】神様の仕業
マンションの部屋に戻り、ヨツバが開けたゲームの箱に入る。
ヨツバはお出かけ中だ。
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あなたは間接的とはいえ、私の世界の人の子を殺した。
これ以上そのような事をするというのなら、こちらにも考えがある。
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箱の中で、キャットフードの袋に頬ずりしていると、個人向け神様通知で、俺充てにメッセージが届いた。
ふーむ、地球を管理する神様達のうち、下っ端の1人によるメッセージ、ね。
神様は一般的に、人間の制定する法律に従う必要は無い。
だから、人殺しをいくら行おうと、罪に問われたりしない。
もっとも、今回の場合のように、管理者から恨みを買うことがある。
で、俺が間接的に殺したとか言いがかりをつけてくるコイツは何様だ。
多分俺が送ったメールがきっかけだったと言いたいのだろうが、それは自業自得だ。
そんな事言うのなら、俺の見立てでは、コイツは間接的に2億人は殺しているぞ。
自覚していないのかもしれないが。
まあいい。本人を呼び出すか。
俺はあらゆる猫の可能性を持っている存在らしく、おおよそ猫やネコ科の魔獣、猫妖怪の類がデフォルトで出来る事は、MP無しで俺にも出来る。
神スペースに潜る。
相変わらずの茶室だ。
俺はお茶とお菓子を用意し、招き猫の能力で本人を招いた。
「……なっ?!」
「にゃー(こんにちは)」
座布団を勧めたのだが、蹴飛ばされてしまった。
お茶とお菓子は避難させたので無事だが。
「私を召喚するとは……この無礼者! 身の程を知れ!」
「……」
コイツ、勘違い系神様か。
神様の中には、自分が一番偉いものだと増長する輩が一定数居る。
そういう奴は例外なくショボい神ばかりなのだが。
強制的に召喚されているという事は、果てしなく格下であるという事だ。
それに気づいていない時点で、残念というか無知というか。
俺以外の短気な神様だったら、コイツ消されてもおかしくないぞ。
「にゃー(とりあえず、さっきのメッセージの意味を教えてもらおうか。
要するに、俺にどうして欲しいって言うんだ?)」
「知れたこと。私の管理する世界で勝手をするなということだよ。
大人しくしているのであれば、今回の件は水に流してあげよう」
「にゃー(水に流すも何も、そもそも俺はお前さんの許しなんて必要ないのだが)」
「はぁっ?! 何様のつもりだ?!」
俺に手をあげようとする神様。短気か。
ホムンクルスが戦闘態勢に入るが、まあ待てと指示する。
神様の拳を、俺の肉球が受け止める。
そのまま俺は、神様の記憶を疑似魂へ抜き取り移し、少し書き換えて、元の体へ戻す。
「はっ?! 私はいったい……」
「にゃー(ああ、何てことだ!
あそこに、リバース・インテリジェンス計画で旦那を失った女性が居るぞ!
おまけに警察は真実を隠蔽しようとしている!
おお神よ! 彼女の運命はどうなる?!)」
俺は、テレビを付けて、該当女性を映し、わざとらしく言ってみた。
「そんな理不尽を、この善神の私が許すはずがないだろう。
私がこの手で救って見せよう」
神様はロングテレポートを使い、現地へ向かってしまった。
いちいちそんな事にまで神様が手を出したら、キリがないと思うのだが。
性格に慈悲深さを付け加えたつもりだったが、ちょっと補正具合を間違えたか?
ま、いいか。
俺は神スペースから出た。
それから昼寝した。
2時間後、ホムンクルスが、不審者を捕まえたと報告した。
俺が送ったメールから、この場所を特定した、裏組織の連中だそうだ。
連中、ワザと俺が居場所を特定出来るメールにした事も気づいてないんでやんの。
既に彼らには、今朝テレビで報道していた男の殺人の罪がある。
その他にも彼らの今まで犯した罪を、大きめのエメラルド板へと刻み、そこへ彼らを鎖で縛り付ける。
そして、そのエメラルド板は駅前に放置だ。
道行く人は何事か、とクラウドアプリで写真を撮っている。
後始末はホムンクルスと、さっきの神に任せるとしよう。
俺はキャットフードの袋を開け、食べる。
う~ん、デリシャス。
◇ ◇ ◇ ◇
・□□大学AI開発部名誉教授XX氏の婦人視点
駅前に、突如として現れたエメラルドの巨大な壁。
そこへ、まるで見せしめのように鎖で壁に縛られた男たち。
エメラルドの壁には、男たちの罪状が書かれている。
私の夫殺しの事についても。
「はいはーい! 危ないから近づかないでくださーい!」
警察の人たちが、エメラルドの壁を取り囲むように、テープで周りを囲む。
「あの!」
「……ん? どうかされましたか?」
「夫は、そこの男たちが殺したのでしょうか?」
「ああ、XXさんの奥さんでしたか。
XXさんの事は、残念でした。お悔やみ申し上げます。
で、事件に関してですが、どうやら上層部の中に協力者が居たらしくてですね。
先程、彼らが誤魔化そうとしていた証拠物品が次々と出てきました。
実行犯に関しては、これから捕まえようとしていた所に、この騒ぎですよ」
警察の人は、エメラルドの壁を指差す。
「あの壁1つで、いったいいくらになるでしょうね?
そんな宝石の壁に、見せしめのように罪状を刻み込み、男たちを鎖で拘束する。
いったい誰がこんな事をしたのでしょうかね」
「きっと」
「ふむ?」
「きっと、神様の仕業でしょう」
「神様……はははは! 確かに!
こんなデタラメな事をするとしたら、発狂した金持ちか神様くらいだ!」
「おい! 遊んでいないで手伝え!」
「はっ! では奥さん、私はこれで」
警察の人は笑いながら職場へ戻った。
何がおかしいというのか。
私は最愛の人を失ったというのに。
エメラルドの壁を睨みつけていると、鎖に縛られた男たちを警察が全員回収し終わったようだった。
その瞬間、エメラルドの壁が破裂した。
「なっ?!」
「きゃぁああー?!」
まばゆい光とともに、あたりから人が消え、一面真っ白な空間に切り替わった。
そこには、よく知る1人の男性がいた。
「……あなた」
「うん、随分やつれているな。ご飯はちゃんと食べた方がいい」
「ここは天国かしら?」
「似たような場所だ。私は今から神様に、次の世界へと転生させてもらう」
よく見たら、夫には足がなかった。
幽霊、なのだろう。
「私もお供します」
「いや、まだ君には色々とやって欲しいことがある。
私の机の上に、未発表の論文の書きかけがあるから、私の部下に手伝ってもらって、完成させて欲しい。
それから、東京のせがれに嫁が出来たみたいだ。あいつ私達に黙って、親を何だと思っているんだ。
彼らを支えるために、東京へ移り住んで欲しい。あとは……」
夫の体が消えてゆく。
「ああ、もう時間か。
伝えたい事が半分も言えなかったな。
ありがとう。愛してるよ。君は私の――」
完全に消えてしまった。
そして、気がつけば駅前に立っていた。
「皆さん! 大丈夫ですか?! 怪我は?!」
エメラルドの壁の爆発で負傷した人は0人だった。
私は、消えたエメラルドの壁に向かって
「……私もですよ」
独り呟いた。
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