355.【後日談2】化け猫の場合


・4属性ゴーレムと魔獣幹部化け猫



化け猫は、ネコ科魔獣専用エステでマッサージを受けていた。

彼女は今はサビ猫の姿で、人間奴隷のマッサージ師によって体をほぐしてもらっていた。



「そこそこ。あぁ、いいねぇ」



その様子を、4属性のゴーレム達は何をするでもなく眺めていた。

今日は化け猫の面倒をみる日だ。

実際には化け猫の方が、ゴーレム達に足りない点を指摘してやることになっている。



「で、あんた達は肉球魔王様に命じられて、こうして魔獣幹部の元を順番に回ってるってわけだねぇ?」


『そうです』と水の文字が空中に浮かぶ。


「肉球魔王様は、最終日にあんた達に試験を課すと言ってたねぇ。

期待に応えるような成長をしていなければ、破棄するか頭を改造するって話だよ」


『そうですか』と炎の文字が浮かぶ。



化け猫は、チッと舌打ちした。

まるで他人事のように返事する4属性ゴーレムの態度にイラっときたのだ。



「火車は面倒見が良いから、あんた達にいろいろおせっかいを焼いたんだろうね。

でもね、あたしは、いや他の魔獣幹部はそこまで親身になってやらないよ。

自分を粗末にするような奴に時間を割いてやるほど、こっちは暇じゃないんでねぇ」



化け猫は思った。

どうやらこの4属性ゴーレムも他のゴーレム達と同じく、人形以上たり得ない、と。


命令されるのが当然、命令に従うのが当然、その命令とあらば自分の命すら捧げるのが当然。

4属性ゴーレム達は本気でそう考えているのだ、と。



「あたしがもし肉球魔王様に、その命捧げろなんて言われたら、全力で拒否するよ。

やりたいことが、たくさんあるからねぇ。

世界中のイケメンネコ科魔獣を見る、人間をからかう、美味しいものを食べる、あとは……」



化け猫の話を聞きつつ、4属性ゴーレムは思った。

肉球魔王様に逆らうなどあり得ない。

そんな無駄なことをして、どうするというのだろう?


本気を出した肉球魔王様から逃れられるとは思えない。

それが分からないほど、この化け猫は頭が悪いのだろうか?



「肉球魔王様に逆らうなんて不可能だ。

あんた達、そう言いたげな顔してるねぇ。

そりゃ、あのお方はあたしなんかが逆立ちしたって勝てない相手さ」



だけどねぇ、と化け猫は続ける。



「あたしがやりたいと思うことを止める権利なんて、誰にも無いんだよ。

例え、肉球魔王様にだってねぇ」



で、と化け猫は続ける。



「あんた達が好きなこと、やりたいこと、ワクワクすることって何だぃ?

ああ、主人が言ったから、命令だからってのは無しだよ」



4属性ゴーレム達は答えられなかった。

命令を遂行すること以外、考えた事が無かったから。



「よぉーく考えなよ。答えが見つからなければ、あんた達は人形止まりさ。

あたしから言うことは、それで終わり。今日はもう帰りな」



化け猫に、ボディソープがワシャワシャと付けられる。

これから体をぬるま湯で洗ってもらうのだろう。


自分達に出来ることは何も無く、化け猫の命令ということで、4属性ゴーレム達は肉球魔王に与えられている森の一角へと帰った。



◇ ◇ ◇ ◇



・大魔導師の森



炎のゴーレムは、化け猫の言っていたワクワクすることを考えていた。


自分が最も高揚するのは、戦いの末、相手を下した時だった。

戦闘関連の命令を受けるのを無意識のうちに楽しみにしていた。

どうやら自分には争い事を好む傾向があるらしい。


風のゴーレムは、化け猫の言っていた、やりたいことを考えていた。


自分が最も達成感を得られたのは、偵察の命令を達成した時だった。

偵察相手の知識を得て、それを肉球魔王様へ教えることに喜びを感じていた。

どうやら自分には教えたがりの素質があるらしい。


水のゴーレムは、化け猫の言っていた、好きなことを考えていた。


自分が最も楽しかったのは、建設や魔道具作成を手伝った時だった。

バラバラのパーツが組み上がっていく様を見るのは、何とも言えない充実感があった。

どうやら自分は物作りが好きらしい。


土のゴーレムも、化け猫の言っていた、好きなことを考えていた。


自分が最も楽しかったのは、驚いた者を見ることだった。

自分の姿を見て驚いた人間、大きな音に驚いたネコ科魔獣。

どうやら自分はイタズラが好きなのかもしれない?


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