354.【後日談2】火車の場合


・4属性ゴーレムと魔獣幹部火車かしゃ


火車は4属性ゴーレムの意識改革を、肉球魔王様から命じられた。

4属性ゴーレムに魔獣幹部達の世話をさせるので、足りない面を彼らに指摘して欲しいとのこと。


具体的には、戦闘以外の思考をもっと柔軟にして欲しい、と。


そこで火車達魔獣幹部は、一日交代で順番に4属性ゴーレムの面倒を見ることになった。



「なーお(で、あなた方は、とある世界の調査をしに行って、調査報告に失敗したと)」



巨大な坊主頭の人型の像。

背中から羽を生やした鼻の長い人型の像。

角を生やした赤い人型の像。

小人型でクチバシを持ち頭に皿を乗せた像。

彼らは肉球魔王様からそれぞれ、地のゴーレム、風のゴーレム、炎のゴーレム、水のゴーレムと呼ばれている。



「なう(肉球魔王様が言うには、定期的な報告すらしていなかったそうですな?)」


『成果がなかなか出なくて』と地面に文字が刻まれる。


「なおん!(成果の有無は言い訳になりませぬぞ!

何も無かったのなら、何もなかった。

まだ途中だったのなら途中経過を、その都度報告すべきでしたな!)」



火車は他にも、報告自体が生存報告になること。

手に負えない時点で肉球魔王様に相談しなかったのは駄目だったことを指摘した。



「なんなん、んなー(報告によっては活動内容や計画の変更、例えば肉球魔王様から調査の中止や一時撤退の指示もあり得ました。

何事も計画通りにいくとは限りませぬ。

その都度、柔軟に対応しなければ駄目ですぞ。

ただ与えられた仕事を考えなしにするだけでは、魔道具と変わりませぬ。

最終目標は何か。そこに至るまでに、自分の仕事はどのような役割を持つのか。

そこを理解していなければ、あなた方はただ言われるままに働く人形ですぞ。

例えば今回のあなた方の最終目標は……)」


「んみゃお!(火車さん、居た! 助けてください!)」



4属性ゴーレム達へ説教を垂れていた火車の元に、慌てたネコ科魔獣がやって来た。



「なぁ(どうしましたかな?)」


「んみゃ(通路でお昼寝して、道を塞いでいる奴が居まして……)」


「なん(ほぅ。では、注意しに行きましょう。

あなた方も付いてきなさい。

今日は私のために働いてもらいましょう)」



◇ ◇ ◇ ◇



2番地の裏にある通り。


そこには建物と建物にサンドイッチされる形で、至福の顔をして昼寝しているネコ科魔獣が居た。



「なーお(ふーむ。薄暗く、体が挟まるほどの狭い場所。

なるほど確かに、昼寝にはもってこいの場所ですな)」


「みゃあ(気持ちは分かりますけどね)」



4属性ゴーレム達には、ネコ科魔獣の昼寝場所へのこだわりは全く理解出来なかった。



「なんなん(では、あなた方。

このネコ科魔獣への対処はどうしましょうか?)」


『普通に、スキルを使って道から退かします』と風で文字が作られた。

火車はため息をついた。



「なおん、なおーん(肉球魔王様があなた方を見捨てないのが不思議なくらいです。

いいですか? 仮に無理やり退かしたとしましょう。

この場では問題が解決したとしても、このネコ科魔獣は、よその場所で同じことを繰り返すでしょう。

それではいけない。

さて、この問題の最終目標は何ですかな?)」


『本人が今後も、道を塞がない場所で昼寝すること』と炎の文字が浮かび上がる。


「なん(そうですな。その方法は?)」


『説得?』と水の文字が浮かび上がる。


「なおう(よろしい。では、やってみなさい)」



風のゴーレムが、そよ風を大きなネコ科魔獣の鼻に入れた。



「……ぶぇっくしょん!

な゛ぁぁあああ(何だ、何だ?)」


『あの、ここで寝ると交通の邪魔に』と風の文字が浮かぶ。


「な゛ー!(てめぇか! 俺に変なスキル使って昼寝の邪魔した奴は!)」


「なん(ああ、そうそう。誰もが字を読めるわけではありませんぞ。

多分そこのネコ科魔獣は、字を読めませぬ)」


「な゛ん(おぉ、火車さん。どうも。

そこの邪魔な奴ら、どっかに連れて行ってください。

ではおやすみなさい)」



大型のネコ科魔獣は再び眠ってしまった。


……。



『……説得、お願いしても構いませんか?』と風で文字が作られる。


「なおー(自分に出来ない事は他人に頼る。

それも大事な事です。

ですが今後も肉球魔王様のサポートをするつもりなら、ネコ科言語くらいは話せるようになっておくべきですな、ははは)」



言うと、火車は大型ネコ科魔獣に軽く猫パンチし、その後説教を始めた。


4属性ゴーレム達は、どうやったらネコ科言語を話せるのか真剣に考えていた。

言うまでもなく火車の冗談だったのだが。


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