326.【後日談】レンタル四次元空間


レンタル四次元空間。

この都市で独自に行っているサービスの1つだ。


昔、俺は【スキル付与】で火車に【四次元空間】【スキル付与】【スキル分割】を付与し、皆にスキルを広めるように指示した。

このスキルを皆が持てば、便利だろうと思ったからだ。


だが実際は、レベルが低い者や適性のない者にはスキル付与が難しく、結果それほど広まらなかった。


ならば代わりに、スキルが使える者が使えない者に協力する形にすればいいだろうと、スキルレンタルを考案した。


【四次元空間】スキルを持っていない者でも、持っている者に頼めば使わせてもらうことが出来る。

そのためには契約者の血を使った、スキル使用契約という契約を行う必要があるのだが。


スキルが使用可能なのは、スキル所持者の使用可能範囲内のみだ。

ほとんどの者は1km以内。

ただし幹部は3km以上の使用範囲がある。


なので、【四次元空間】のレンタルは幹部に頼むのが人気だ。

あるいは自分の主人の魔獣が【四次元空間】を覚えている場合、主人に頼む人間も居る。


で、ここは宿屋。

ナンシーさんが近所の人からレンタル四次元空間のことを知り、魔獣幹部に会いたがっている。


食材の鮮度を保ったり、使用期限のある備品をまとめ買いして保管するのに便利だろうということだ。


【四次元空間】が使えるヨツバがナンシーさんに協力すれば済む話なのだが。

ヨツバはあまり自分の能力をナンシーさんに話したがらないみたいで、その方法は却下らしい。

まあ俺も自分の事をナンシーさんに知らせていないので、ヨツバをどうこう言う権利はない。



「ネル、魔獣幹部さんって、どこに行けば会えるのかしら?」


「んー、知らない」


「それならボクが案内しますよ」



管理人室にひょっこり顔を出したのはマック君だ。

最近は錬金術でゴーレムを作る練習をしている。


マック君を先頭に、ネルとナンシーさん、俺はついていく。

ちなみにサバさんは昼寝中だ。


宿を出て『準備中』の掛札をドアノブに吊るし鍵をかけ、俺達は出かけることにした。



◇ ◇ ◇ ◇



ここは錬金術工房。

魔獣幹部、金の亡者の管轄だ。



「カルロ! 居るかい?」


「わたしに何か用ですかマック? おや、肉球魔王様もいらっしゃったのですか」


「にゃー(こんにちは)」


「うみゅう(肉球魔王様が居ると聞いて)」



部屋の扉から工房のツートップ、カルロ君と金の亡者が現れ、マック君と俺を見る。


ナンシーさんは、肉球魔王様? と呟き、俺の傍に居たムキムキのネコ科魔獣を見る。

そいつは青い毛で短い角が1本生えた、1m程の大きさの鬼丸(おにまる)という魔獣だ。



「にゃふん!(今日も筋トレ! 明日も筋トレ! 輝け、俺の腹直筋!)」



彼は現在腹筋中だ。

工房の用心棒だが、する事が無く暇なので筋トレをしているみたいだ。



「この前の空の幻影は、あなたの仕業かしら?」


「にゃっふ!(んん? 俺にナンパかい、お嬢さん? だが、人間の女には興味ないぜ!

というか人間語は理解できねぇ!)」


「なるほど、あなたが肉球魔王様の正体なのね」



全然会話がかみ合ってないぞ?!

というか人違い、いや猫違いです。


ナンシーさんが鬼丸と会話している間に、マック君がカルロ君と話を進めてしまう。



「うみゅみゅ(そういうことなら任せて。お安くしておく)」


「にゃー(金取るのかよ)」


「うんみゅ(タダより高い物は無い。これ名言)」



ナンシーさんが、鬼丸の腹をモフモフしだした。

誰か止めろよ。



「じゃ、ナンシーさんにはお世話になっているし、ボクが支払うよ」


「うみゅ(まいど。じゃ、この契約書に本人の血を垂らして)」


「痛ッ! 噛まれちゃったわ」



ナンシーさんの手から血が出ている。

鬼丸に噛まれたらしい。

金の亡者がそこに飛びつき、契約書を擦り付けた。


これで契約完了だ。

ナンシーさんはレンタル四次元空間を使えるようになった。



「ところで、魔獣幹部さんはどちらかしら?

お願いしたい事があるのだけど」


「ナンシーさんの体に登っている、その金色の魔獣が幹部です。

それに、もうとっくに契約は終わっていますが」


「あら?」



1000年後の世界でも、ナンシーさんは相変わらずマイペースだった。


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