325.【後日談】肉球魔王様の返信
・中央都市チザンにて
ここは城の中庭。
ゴブリン・チーフが、伝書バッドクロウはまだか、まだかとソワソワしている。
ゴウッ。
強風に煽られて、ゴブリン・チーフが一瞬目をつむる。
目を開けると、地面に手紙が置かれていた。
「ギ、ギャッ……(こ、これは……!)」
封に肉球スタンプが押された手紙。
『チザン在住のゴブリン・チーフへ 肉球魔王より』と書かれている。
おかしい。
自分は魔獣都市マタタビに住むスパイ宛てに手紙を送ったはずだ。
なぜ肉球魔王から返事の手紙が来たのか。
スパイの存在がばれたのか。
あるいは、スパイもしくは伝書バッドクロウが裏切ったのか。
伝書バッドクロウが途中で死んで、手紙を偶然肉球魔王が拾った……いや、それはあり得ない。
ゴブリン・チーフは色々な可能性を考え、自分だけでは手に負えないと判断した。
とにかく、手紙を魔獣王ゴルンと、その側近の幹部達に見せなければ。
◇ ◇ ◇ ◇
・中央都市チザン、王城の王の間
早朝。まだ日が昇らない時刻に、王ゴルンと幹部達が集まる。
ゴブリン・チーフが、手紙の送り主について報告した。
「それで、手紙には何と書いてあるのだぁぁあああ」
「ギャッ!(はい、ただいま読み上げます!
えーと……)」
『この半年のおおまかな活動記録は以下の通りです。
魔獣都市マタタビの都市拡大・昼寝広場設置。
肉球魔王公認バッジを新たに約20人に配布。
指定された作物の納税。
雑貨屋クローバー開店。
雑貨屋クローバー・オンラインショップ開店。
ダンジョンの女神に依頼された短期バイト。
錬金術関連の論文3本作製。
ベヒーモス・ゴーレムを役職から追放(魔獣都市リンゴを無許可で滅亡させた罪で永久畑仕事の刑)。
その他の活動や詳細が知りたい場合、折り返し手紙をどうぞ』
「……」
「ブヒッ(オンラインショップってどんなショップだお?)」
「ヒヒーン(そりゃ、オンラインを売る店だろ。名前的に考えて)」
「(……オンラインって何だお?)」
「(オンラインって食い物の名前か? 気になる)」
ざわざわと幹部達が雑談する中、ゴルンは立ち上がる。
幹部達は雑談を止め、注目する。
ゴルンは手紙をどう解釈し、どう対処するつもりなのか。
「魔獣都市リンゴは、愚かにも魔獣都市マタタビを攻めようとし、逆に滅ばされたぁぁあああ!」
「ギャッ?(えっ?)」
「ブブッ(なるほど。死人に口なし、だお)」
「ヒヒン(どういうことだ?)」
「ブヒブヒ(つまり、今回の魔獣都市リンゴの滅亡は、リンゴによる自業自得だお。
そしてそれは、肉球魔王の意図ではなくあくまで配下の勝手な暴走によるもの。
そういう事にしよう、というわけだお!)」
「とりあえず、一般市民にはそのように噂として広めるのだぁぁあああ!」
一番の懸念、魔獣都市マタタビが敵かどうかだが、明らかな敵対姿勢は見られない。
もちろん真意は不明だが。
ならば次はその真意を確かめるために、魔獣都市リンゴの件について、魔獣都市マタタビに調査団を送ることにしよう。
調査団には、伝書バッドクロウとスパイの安否もついでに確認させる。
もし調査団を拒否するようであれば、やはり怪しいと判断し臨戦態勢を維持。
受け入れるようであれば、軍事面を徹底的に調査する。
ゴルンは調査団受け入れ要請の手紙を伝書バッドクロウに巻き付け、魔獣都市マタタビへ飛ばした。
二つ返事で肉球魔王のOKが得られたので、後日調査団による魔獣都市マタタビの調査が始まった。
結果、肉球魔王の言っている事は本当であり、軍事的な怪しい動きは無し。
忍んでいたスパイは全員無事だった。
ただし、伝書バッドクロウの1羽は運悪く、ネコ科魔獣達のおやつになったみたいである。
スパイいわく、深夜はネコ科魔獣達が集まって話し合いする時間らしい。
そんな彼らの真上にバッドクロウを飛ばせば、そりゃ墜とされるだろう、と。
ネコ科魔獣は動く餌を見つけたら、特に理由もなく仕留めたくなるものである。
バッドクロウを飛ばすなら、ネコ科魔獣達が昼寝中の昼にしろ、と。
とにかく、魔獣都市マタタビの連中は、戦争の“せ”の字も考えていない、呑気な奴らだから心配ない。
調査団もスパイも、そう結論づけた。
魔獣都市マタタビは今日も平和である。
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