316.【後日談】赤いハエ


・フランベルジュ視点


暗闇の中、目が覚めたのである。

確か、我は洞窟で最期を迎えようとしていたはずである。


冥王ハーディスが、我を始めとする上位魔獣に課した使命。

それは、国を作り文化を育むことであった。


その対価として、我らは長寿の体を得た。

ただし、自分を奉る者が居なくなった場合に、その効果は切れるのである。


信奉されるにあたり、名前が無いのは不便であろうと、ハーディスは我らに異界の武器にちなんだ名を与えた。

与えられた我の名は、フランベルジュ。


使命を受けたある者は鳥の魔獣を束ね、またある者は地上の魔獣を束ね、海の魔獣を束ね……それぞれが国を作った。


我らが作った国は、我らの名前の一部が使われている。

国が続く限り、我らを忘れないために。


我らがせっかく作った国も、滅びることもある。

あるいは、我らのことを忘れ去ることもある。


我らの記憶が世界からほとんど消えた場合、我らは寿命を迎え、消失する。


我は、誇り高き戦士、後のフランベル1世とともに国を作った。

束ねた種族は人間。ひ弱であるが、頭が良い種族である。


国を立ち上げた我は、聖獣として崇められるようになった。

丁度その頃から、人間を束ね国を作る聖獣が多く現れるようになった。

人間は社会性に富んでいるため、束ねやすいという理由もあったのであろう。


しかし、人間はあまりに短命である。

我が50年昼寝する程度で、我を知る者が消え、忘れられてゆく。


不思議猫が居なければ、我は世界から消えていたであろう。

我の昔話ではなく、我そのものを知る者が居なければ駄目なのである。


不思議猫とともにフランベル国を盛り上げようとしたが、王の子孫は出来損ないばかり。

側近は王にゴマをする者ばかり。


不思議猫は、親身にしていた者を失ったショックで森に引きこもってしまって、不思議猫に依存した政治が崩壊。

あっという間に国は傾き、修復不可能となってしまった。


頑張って作り上げてきた国が滅びるのを見るのが辛くて、我はこの洞窟へ引きこもり、ふて寝していた。

きっと、我の記憶は人々から失われ、我は眠るように消えるはずである。


はずであった。


我の体が残っているということは、少なくとも我を知る者が1000人は居ないと計算が合わない。

あるいは、神クラスの高位の者が2人以上、フランベル国の領土に居るとかである。


不思議猫と、暴力白猫がまだ生きているのであるか?


見に行ってみるのである。


我は起き上がり、洞窟をはい出て、フランベル国のあった領地へと飛び立った。



◇ ◇ ◇ ◇



・トミタ視点


四次元空間内から魔獣都市の外の見張りをしていたベヒーモス・ゴーレムが、俺に知らせる事があるみたいだ。

何だろう?



『赤いハエが飛んできたので、叩き落しました』



地面に文字が描かれた。

赤いハエ?


俺は四次元ワープで、ハエとやらの居る場所へ向かう。



「キュオン……(酷いのである……)」



そこそこの大きさの赤い竜、というかフランベルジュが地面に埋まっていた。

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