307.【後日談】にじみ出るお人よしオーラ
無事にナンシーさんとパーシー君、シャム、シャムの両親達を、魔獣都市マタタビへと連れてきた。
彼女らは、広場の真ん中に横になっている。
俺は、首輪のPCをいじって、映像投影用意と読み上げソフトの音声の調整をしていた。
素人でも、ハリウ〇ドが真っ青になるくらいの立体映像が作れるそうだ。
命君のくれたPC、便利すぎるぞ。
さて、そろそろ睡眠薬成分が切れるはずだ。
「……。
…………。
……………………?
あら?
ここはどこかしら」
ナンシーさんが起きた。
「う~ん、体が痛いわぁ」
「何だ? 俺はパンを焼いていたはず……」
「?」
「ニコ、待ってくれ! あの女とは別に何にもないんd……むむ?」
パーシー君、シャムと彼女の両親も起きた。
今だ。
俺は影に隠れ、ナンシーさん達を見守りつつ、宙に映っている投影ボタンをタップした。
ゴロゴロゴロゴロ。
雷鳴が響き、空に黒い渦が現れ、都市を覆うほどの巨大な体を持つ黒いカバが現れる。
なかなか禍々(まがまが)しいな。
『ナンシー、パーシー、シャム、ネオ、クラリッサ。
ようこそ魔獣都市マタタビへ。吾輩は肉球魔王様と呼ばれている者だ。
貴様らを歓迎してやろう』
俺は宙に映るキーボードをタップし、文章を打ち込む。
すると、低い男の声が厳かに鳴り響く。
「んなー!(何事だ?!)」
「うみゃう!(敵襲! こんなこともあろうかと、防衛費はしっかり蓄えている!)」
空の様子に気づいた魔獣達が騒ぎ出す。
魔獣幹部達が、空に向かって攻撃スキルを放っている。
事前に都市の奴らにアナウンスするのを忘れていた。
ナンシーさん達のことばかり考えて、うっかりしていたな。
「にゃー(あれは俺の仕業だ。何の問題ない。
他の奴らにも伝えてくれ)」
「んな!(肉球魔王様! 左様でございますか!)」
「うみゅう(もう魔石ミサイル10発も撃っちゃった。お金がもったいない)」
魔獣幹部2匹は落ち着きを取り戻し、俺の伝言を引き受けた。
そのうち都市の騒ぎも収まるだろう。
『貴様ら5人は、吾輩によって、はるか未来の元フランベル国へと飛ばされた。
見慣れぬ土地で不安になるかもしれぬが、心配するな。
この魔獣都市マタタビは、魔獣の世話さえ行えば税金も徴兵も要らない場所だ。
世界中で、このマタタビに住まいたいという人間が居て、住居が足りないくらいなのだぞ。
ああ住居といえば貴様らの家は、ナンシーの宿で住まうといい。
あとは、これが魔獣都市マタタビの条例だ』
俺は四次元空間で、5人の元に条例の紙を遠隔操作で配る。
何故か5人はポカーンとしている。
おかしいな。
威厳ある姿、声で魔王を作っているから、恐怖で震えたりするものかと思ったが。
まだ実感がわいていないだけかもしれないな。
『次に魔獣都市マタタビにおけるゴミの出し方だが……』
この都市の注意事項を一通り説明し、首輪のPCの電源を切る。
空に映った映像が消えた。
「……」
ナンシーさん達は、未だにポカーンとしている。
「おいおい、さっきのって肉球魔王様とかいう奴の仕業だろ?」
「自分で連れてきた人間のために懇切丁寧に説明するとか、噂通りのお方だな」
「税金も徴兵もないし、労働も魔獣の世話を少しだけで良い。
こんな理想郷、他にねーよなぁ。
肉球魔王様々だぜ」
都市の人が、空に向かってありがたそうに手を合わせていた。
俺ってどんな風に認識されているのだろうか。
割と独裁者っぽく振舞っているつもりだったのだが。
ナンシーさん達が、はっと我に返り、ナンシーさんの宿屋に向かった。
俺もついていくことにした。
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