271.【後日談】あの時……


「今日が、母さんと父さんの命日だね」



ここは墓地。

マック君とパーシー君の子ども、アレクサンドラ、通称アレックス君が墓に花束を供える。


俺は、マック君の大好物のキラーボアのステーキを供える。



「いやいや猫さん。そんな物供えたって、バッドクロウの餌になるだけだよ」


「にゃー(いいさ)」



こんなことしても、マック君達は帰ってこない。

あくまで俺の自己満足だ。

お供え物なんて、大抵そういう物だろう。


あの時、俺に【グレイターヒール】のスキルがあれば。

あの時、俺が悪意に気づいていれば。

あの時、俺にもっと力と知識があれば。


あの時……



「猫さんは悪くないよ。

全部、スライムって魔獣の仕業だ。

俺の母さんが死んだのも、父さんが狂って自殺したのも」



俺が自分を責めているのを、アレックス君は慰める。


アレックス君はマック君の銀髪と、パーシー君の眼の色を受け継いだ青年だ。

マック君と同じく、錬金術師で生計を立てている。


ただマック君と違い、ゴーレムの研究を進めているらしいが。



「猫さん、俺にはね、夢があるんだ」


「にゃー(どんな?)」



アレックス君は猫語が分かるわけではないのだが、長年の付き合いのおかげで、だいたいの意思疎通はタイプライター無しで出来る。



「ゴーレムの恩恵を、町の皆が受けられる社会を作る。

今はゴーレムは貴重だから、一部の金持ちしか使役させられないが、そのうち一般に流通させてみせる。

仕事も徴兵も、面倒ごとはゴーレムに任せて、俺達はお日様の下で昼寝するのさ」


「にゃー(そいつはいいな)」


「猫さんの夢は何だい?」



俺の夢、か。


猫が飼いたい、という夢は自分が猫になったから、もういいか。



「にゃー(大好きな人と、たくさんの猫にまみれた町で昼寝がしたいな)」


「そっか。……ま、何て言ってんのか俺にはわからないんだけどね!」



アレックス君はケラケラ笑い、じゃあね、と墓地を去っていった。


俺とアレックス君の夢は、それから約1000年後に叶うことになる。


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