272.【後日談】試練を与える者


大魔導士の森でのんびりしていると、鬼型の火のゴーレムが俺の前に現れた。


空中に炎の文字を描き、俺に知らせる。



『地と風、水のゴーレムがやられた。巨大魔獣に消された』



なんだって?

あいつらは不死身の存在に作ってあるはずだ。

消された?



『詳しく聞かせろ』と、エメラルド版に文字を刻む。


『巨大魔獣が触れた瞬間、粉々に砕けた。

魂も砕けたようだ。奴にあらゆる魔法スキルを使用しても、通用しなかった』


『どのくらい大きい魔獣だったんだ?』と刻む。



ドスン、ドスン、と遠くから聞こえてくる。

例の魔獣の足音だろうか。


……ちょっと待て。

おかしい。

俺の耳が異常でなければ、足音の音源は100km以上離れているはずだ。


だんだんと地面の揺れが大きくなってきた。


俺は木の上に登る。

遠くの方に、見慣れぬ山が1つ。


いや、あれが魔獣か。



「みゅ~!(おおっ、強そうな魔獣にゃ!)」


「にゃー(気を付けろリリー。触れたら即死らしいぞ)」


「みゅ~!(了解にゃ!)」



俺達は、四次元ワープで魔獣の近くへ移動した。



◇ ◇ ◇ ◇



『我、試練を与える者なり。

小さき者達よ、生き残りたいのならば、我から逃げるがよい。

さもなくば、魂ごと破壊してくれよう』



山のような魔獣は、近くで見ると巨大な象だった。

そいつが、テレパシーのようなものを使い、語っている。



「みゅ~!(毛玉ブラスターにゃ~!)」



リリーが口から毛玉を、マッハ8超えの速度で発射する。

普通あんな速度出したら燃えそうなものだが、そこはリリーの毛。

金属よりも融点が高いらしい。


バキン! 魔獣の体に当たった毛玉は壊れた。



『愚かな。小さき者よ、我には一切の攻撃が通用せぬ。

我に刃向かった者は全員、粉々にした。

このように、な』



巨大象は、鼻で薙ぎ払いをしてきた。

俺は四次元ワープで避ける。

リリーも避ける。


だが、炎のゴーレムは今の攻撃に巻き込まれ、粉砕されてしまった。



「にゃー(今すぐ暴れるのをやめるんだ。さもないと、お前を殺さないとならない)」


『小さき者よ、我が今行っているのは、崇高なる試練。

創造主エルメス様の思し召しである。

この世界には、魂が溢れすぎた。

それを嘆いたエルメス様が、我ら3体の神聖なる魔獣を世界へ放ったのだ。

我が行っているのは、ゴミ掃除に過ぎぬ』


「にゃー(最後の警告だ、止まれ。さもなくば)」



言い終わる前に、象が俺を踏みつけようとする。

交渉決裂だな。


俺は、ネル達を失った後、ひたすら強さを求めてきた。


ヨツバが言っていた、ラスボス級の技とやらもほとんど全て使うことが出来るし、その対処方法だって1000通りは用意している。


何でも破壊する奴の対処法だって、当然知っている。



「にゃー(【変性錬成】)」



奴が乗っている地面を盛り上げ、空へ打ち上げてやった。


自分が乗っている地面は、破壊できまい。

それをやったら沈んでしまうからな。


同様に奴は何種類か、これは破壊しない、と自分で設定してあるはずだ。

つまり、その何種類か決めている物によって攻撃すれば通る。


例えば、光。

【強化加速度操作】で、ありったけの光を収束させ、魔獣に放つ。

一筋の光は、奴の体に1本の穴を空けた。


【強化ステータス無効化】を付与してあるので、装甲が硬かろうが関係ない。

【強化スキル無効化】も付与してあるので、もはや奴の体はスキルで破壊効果をまとうことはできない。



『ぬぉぉおおお?!

お、おのれ、こうなったら……』


「みゅ~!(必殺、光の乱れ切りにゃ!)」



ズバッ!

巨大象の体が八つ裂きにされる。


俺のマネをして、リリーは光を爪に収束させ、それを斬撃として飛ばしたらしい。

今の巨大象なら、そのまま攻撃しても問題なかったのだがな。



『何故だ! 我は決してこのような小さき者に負けるはずなど』



【強化捜索】を使用し、魂の場所の目ぼしをつける。

象の体に登り、そこに目がけて俺は本気の猫キックを放つ。


鑑定すると、奴のHPが0になった。

これにて、一件落着だ。


◇ ◇ ◇ ◇



『クケェエエエエッ?! キサマラ、エルメス様に逆らってただで済むと思うなよ……!』



後日、俺達は巨大な鳥を倒した。



◇ ◇ ◇ ◇



『エルメス様ばんざーい!』



後日、俺達は巨大なウミヘビを倒した。



◇ ◇ ◇ ◇



『ベヒーモス、ジズ、リヴァイアサンがやられたか。

まあいい、次の手駒は用意して』


「にゃー(猫きーっく)」



俺達は、首謀者エルメスをやっつけた。


神様だからって、容赦はしない。

大量に魂を壊した罪で、ハーディス様に絞られてこい。


そして俺は、世界の危機を救った魔王様、と人間や魔獣達から讃えられた。

だが、俺の心は満たされることはなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る