270.【後日談】大怪盗NYANKO その2


・イヘンダー国、王宮にて


王座で高級料理を貪り、両脇に女をはべらせている太く醜い男、転生者ヒデスケの元に手紙が届けられた。



『ヒデスケ殿へ。

本日午後、スキル【服従】を頂戴させていただきたく存じます。

大怪盗NYANKO』


「NYANKO? 誰でふか、それは。

この手紙を渡した者はどんな奴だったでふ?」



ヒデスケが鼻をほじりながら、手紙を渡した番兵に問う。



「はっ! それが、急にポンと目の前に手紙だけが現れたのです……」


「差出人の正体は分からない、と言うのでふか?」


「申し訳ありません」


「チッ、使えない奴でふ。死ね」



ヒデスケが命じると、番兵は腰の短剣で、自分の首を刺し、引き抜いた。

スキル【服従】を番兵に使ったのだ。

このスキルを使用されると、どんな命令でも聞いてしまう。



「仕事をきちんとこなさない奴は、生きる価値がないでふ」


「まったくその通りでございます!

いやぁ、ヒデスケ様はいつも正しい!

あなた様に仕えて本当に幸せですよ!」


「そうでふ、おらちんは天才でふ。

お前ら無能のために、おらちんが上に立って命令を下す!

それで国が回っているのでふ!

ふひっ、ふひっ」


「にゃー(【ヒール】っと)」



番兵の首の傷が塞がり、出血が止まった。



「何者でふ!」


「にゃー(こんにちは。宣言通り、スキル【服従】は頂いていくぞ)」


「野良猫でございますか?

いったいどこから紛れ込んだのやら」


「ばっかもーん! そいつがNYANKOでふ! とらえるでふー!」



近衛兵達がトミタを捕えようとするが、それをひょいと避けて、トミタはヒデスケの目の前にやって来た。



「にゃー(覚悟はいいか?)」


「ふふ、NYANKOに命ずるでふ。今すぐ死ぬでふ」


「……」



ことり。

トミタは目をつぶり、横になった。



「ふ、ふひひ。おらちんのスキルを盗もうなんて思いあがるから、こうなるのでふ」



ヒデスケがトミタを踏みつけようと足を下す。

そのとき、トミタの前足が動き、ヒデスケの足を受け止めた。



「にゃー(触ったな? 【(奪)スキル強奪】)」


「なっ?!」



トミタが、ヒデスケの持つスキルを全て強奪した。



「にゃー(ワルサー皇帝みたいに【スキル強奪】を飛ばせたらいいのにな。

だが、1度に全部【スキル強奪】するコツは掴んだ。

次は、触れなくても【スキル強奪】出来るような使い方を考えなければ)」


「生きているでふ?!

この猫、おらちんのスキルが効いていないでふ!

お前ら、この不気味な猫を排除するでふ!」



しかし、誰もヒデスケに従わない。

既にトミタにスキル強奪され、【服従】を失っているからだ。

ちなみにトミタは【強化絶対耐性】【強化スキル無効化】による耐性で、洗脳系スキル全般がそもそも効かない。


トミタが死んだふりしたのは、ヒデスケのその後の反応で、少しでも罪悪感を見せれば許してやるか、と思ったからだ。

だが、結果は彼が増長しただけだった。

トミタはヒデスケを見捨てることにした。



「自由に動ける……?! おいデブ。よくも俺の家族を殺したな!」


「今までさんざん罵ってくれましたね!

自分は何一つ出来ない無能のくせに!」



無理やり働かされていた者達が、【服従】から解放される。

彼らはヒデスケを決して許さないだろう。


国に洗脳されていた勇者と違い、ヒデスケの行いは全て自分の意思によるものだ。

スキルを失った結果、ヒデスケが受ける復讐も、自業自得であろう。



「にゃー(じゃあな。このスキルは分解して、俺の経験値の足しにさせてもらう)」



ヒデスケにトミタの言っていることは何一つ伝わらなかったのだが、伝える義理も無い。


トミタが去った後、ヒデスケと従者たちは、ヒデスケに虐げられた者達によって捕縛された。

そして無残に処刑されたそうだ。


数ヶ月後、イヘンダー国を救ったスキル泥棒、大怪盗NYANKOの像が建てられ、国の救世主として崇められた。


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