266.【過去編】ある元治癒大臣


・コーディ視点


昔、ルカタ帝国に居た頃の話。


変わった子どもだ。

私はよく、そう言われていた。


皆と遊ばず、一人森に遊びに行き、草で練り物を作るのが好きだった。

その時、とある男に見つかり、彼が薬草のことを教えてくれるようになった。



「このあたりの薬草は、質の高い薬の材料になるのでおじゃる。


「……そう」


「貴様は物覚えが良い。

我は有能な者が大好きなのでおじゃる。

いつか我が皇帝となった時、薬師として雇ってやるのでおじゃる」


「うん」



その男は、やがて皇帝となるほどの偉い貴族だったらしいけれど、当時の私はよく分かっていなかった。



◇ ◇ ◇ ◇



月日は流れ、私は15歳となった。


私みたいな変人でも、この年になると女性扱いされるらしく、パートナーも出来た。

一緒に森の散策に付き合ってくれる良い人だ。



「今日は西にある、遠くの森に行ってみよう。いつも同じ場所じゃ飽きるだろ」


「いいかも」



私達はいつもと違う森へ向かった。

そこがエルフ族の縄張りだと知らずに。



◇ ◇ ◇ ◇



「マイト……そんな……」



エルフ達の弓に貫かれて絶命したパートナー。

彼は最後に「逃げろ」と叫んだが、悲しいことに足がすくんで動けない。



「人間死すべし。慈悲はない」


「ひゃははははー! 汚ねぇ女だなぁ!

どう料理してやろうかぁ!」


「あたしらの土地に入ったことを後悔するんだね」



それから私はエルフの男女たちに殴られ、蹴られ、酷いことをされた。

犯されることはなかった。

彼らは私を汚物扱いしていたらしく、私なんて犯す価値も無いとのこと。


それからだろうか。

大勢の人を見ると吐き気が現れるようになったのは。

今でも夢に見る。エルフの男女たちの下品な笑みが。


この日、私はエルフ族の捕虜となった。



◇ ◇ ◇ ◇



何日、何ヶ月経っただろう。

エルフ族が投げてよこす食べ物を犬食いして、排泄物を垂れ流す日々。


そんなある日のこと、エルフ族が騒ぎ出した。



「おい! ヤバいのが向かって来ているらしいぞ!」


「早く逃げるんだよ!」



エルフ達があたふたしていると、突然彼らに黒い触手のようなものが絡まる。



「な、何だこれは?!」


「動けない!」


「ふん、帝国にまだ人間の出来損ないが居たでおじゃるか。

消えよ、【存在消去】」



その男の人は、小さな子どもの頃に見たあの男だった。


男が紫色の光を放つと、エルフ達が消えてしまう。

あっという間に、この場には私1人となった。



「捕まった平民か。情けない。

我は役立たずが大嫌いでおじゃる。

【存在しょ……」


「……」


「んん?

よく見ればあの時の子どもでおじゃるな。

ふむ、我は約束を破るのは大嫌いであるからして、貴様を薬師に雇うことにしよう」



こうして私は、ワルサー皇帝の気まぐれで薬師に雇われることとなる。

やがて治癒大臣にまで上り詰めるのだけど、それはまだ10年後の話。

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