222.ふわぽよ


ここは宿屋。


ナンシーさんは受付で、ヨツバに絵本を読み聞かせている。



「灰かぶりの少女は言いました。

『ごめんなさい王子様。私は、12時の鐘が鳴ったら帰らなければならないのです』」



この世界の時計は、基本的には日時計だ。

おおまかな時間しか測れないけどな。


ヨツバは退屈そうにあくびした。



「あら、ヨツバったら眠そうね。

ネル、ヨツバを部屋に運んで頂戴」


「はーい」



だが、ヨツバは自分で部屋へ向かって行った。



「じゃあ代わりに猫さんを運ぶー!」



何でそうなるんだ。

と思っている間に、ひょいと抱き上げられる。


出会った頃は俺を持ちあげられなかったのに、成長したなぁネル。

ってか、最近は昔のことばかり考えている。

俺も年か。



「あったかーい。ふわぽよだー」



はいはい、どうせ俺はデブ猫ですよーっと。


ネルは俺を部屋まで運んだ後も、しばらく俺をポフポフするのだった。



◇ ◇ ◇ ◇



・リオン視点


まだ日も昇らぬ早朝、俺は鍛冶場に来ていた。


月明かりを頼りに薪に火を付け、道具の手入れと点検を行う。

鍛冶の作業自体は、夜に行うと近所迷惑だから、朝と夕方の混んでいない時刻に行う。



「よし、異常なし」



親父は俺に技を伝授する前に死んだ。

だが、幼少の頃からその背中を見てきた俺は、なんとなくでも手順を知っている。


それに、旦那から貰った本で勉強もした。

暇な時間には王族ご用達鍛冶場へ、旦那が連れて行ってくれた。

彼らは快く俺の指導を引き受けてくれた。

まだまだ俺の技術は未熟だから、技を盗み取るためにも、7日に1日の休日に通うことにする。


品物が出来たら雑貨屋に並べてくれる、と旦那やヨツバ姉さまは言った。

でも、俺がその段階に達するまで少なくとも5年はかかるだろう。



「炉が温まってきたな。始めるか」



旦那が用意してくれた鉱石は、純度の高い上等な物ばかりだった。

いったいどこで仕入れたのだろうか。


ま、俺が気にしても仕方のないことか。


それよりも気になるのは、先ほどからふいごを踏み踏みして、炉に風を送っている赤いひょう



「グルグルゥ!」



旦那が森から連れてきた、俺専属の助っ人らしい。

ブラディパンサーとかいう魔獣なんだが……確かBランク魔獣だよな?

単体で村1つ滅ぼすとか言われてたような気がするが。



「ガウウ」



知能が高く、エルフによって言葉を仕込まれたので命令を理解するらしい。



「はいストップ」



炉の温度が丁度良いくらいになったので、ふいごを止めてもらった。



「……」



豹に見られて、作業に集中できねぇ!

些細な事を気にするようでは、俺はまだまだ未熟ってことか。

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