207.雇用


ルカタの残りの連中は、俺への恨み骨髄に徹するといった感じで、とても採用は出来なそうだった。


まあいい。

町で募集の張り紙を貼るとしよう。

役場に行き、許可を貰わねば。



◇ ◇ ◇ ◇



「紙を町に貼るなんて、そんな贅沢よく思いつきますね。

町の方が驚くので、申し訳ありませんがご遠慮願います」



役場に行ったが、張り紙は役員のお姉さんに却下された。

代わりに、役場にて仕事の斡旋を行っているそうなので、仕事探しをしている人の名簿を見せてもらった。


ふむふむ。


……名簿に、パン屋の娘のシャムが居るぞ。

どうしたんだろう、家を追い出されたのかな?


俺は鉛筆もどきで、シャムの名前を指して、首をかしげる。



「ああ、その女性ですか。

王城でコックの見習いをしていたみたいですよ」



ほぅ。俺の知らない間に、そんな所に就職していたのか。



「ですが、同僚のコックに振られた腹いせに、城の秘蔵の酒を飲んでクビになったそうです。

家に帰って親と顔を合わせるのも気まずいので、どこかに住みこみで働きたいとのことです」



あらま、そんなことがあったのか。


うーむ……このままだと夜の商売に手を出しそうだな。

助けてやるか。


俺は『この子採用』と羊皮紙に書く。



「はい、承りました。彼女の泊まっている宿に連絡員を寄こします」



シャムちゃんは若いから、店番に回せば良さそうだな。

上手くいけば看板娘になるだろう。


あとは、倉庫番と図書館番だな。


だが、名簿のリストを見ても目ぼしい人物は居なかった。


倉庫番は誠実かつ体格の良い人物が良い。

図書館番は貴族への対応が出来る丁寧な人が良い。


ということを、お姉さんに書いて伝えたのだが、そんな優秀な人材が仕事に困っているはずがないと言われた。

まあ考えてみればそうだよなぁ。


仕方ない、森のエルフに手伝ってもらうとしよう。



「シャムを連れてきました」


「連れてこられたわぁ~」



連絡員が、シャムを連れて帰って来た。



「シャムさん、雑貨屋クローバーが、あなたを雇用するそうです。

ここに名前と血印をお願いします」


「は~い。これでいいかしらぁ?」


「確かに。では、雑貨屋クローバーに向かってください」



手続きが終わり、俺とシャムは雑貨屋へ歩いて向かうことにした。



◇ ◇ ◇ ◇



「この猫さん、ネルちゃんのお気に入りの猫に似てるわねぇ。

何で私に付いてくるのかしらぁ?」



似てるも何も同一人物だが。

いや、同一動物と言うべきか。


雑貨屋に着くと、城の兵士さんと奴隷の首輪を付けたコーディが居た。



「大魔導士殿、指名された例の者、確かに引き渡しました!」


「にゃー(ごくろうさん)」



兵士君に、こっそりと5万Gほどチップに渡した。

彼は喜んで、スキップしながら城へ向かった。


さあ、この二人の新人教育だ。

といっても、シャムについてはリオン君と同じ店番なので、リオン君が教育すれば良いだろう。

住まいについても、エルフやリオン君としばらく一緒に泊まってもらおう。


俺はコーディの教育だな。

森に連れて行って、個人的に研究を叩きこむとしよう。

同じ研究職のマック君と違って、彼女の研究テーマは生前の俺と類似しているからな。

教えがいがあるというものだ。

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