162.断ろう
翌日の早朝、森の自宅建設予定地の隣に設置されたテント内で、俺はアウレネとシルフ婆さんに事情を話した。
秘密と言われたのに守ってないじゃないか、だって?
あそこまで失礼をされたのに、こちらが義理を通す理由はない。
「よし、今こそ王を討ち滅ぼし、バステト様が天下を取るのじゃ!」
「おお~、ついに攻めるのですか~? 協力します~」
『やめろ』と書く。
アウレネとシルフ婆さんが出した結論は、王の下になど下らず、いっそ力ずくで王都を奪っちゃおうぜ、というものだった。
どこの魔王だよ、それは。
いや、シルフ婆さんは元魔王だったな、そういえば。
うーむ、明日、ヨツバの意見を聞いてみよう。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日。宿屋にて。
ナンシーさんとマック君は、食堂のテーブルで何やら話をしていた。
マック君はナンシーさん相手だと敬語になるらしい。
「錬金術を教えている場所で言われたんです。
ボクくらいの年の女性は、男が居るのが当たり前なのに、行き遅れだ、と」
「まあ。ちなみにニコさんのお歳はいくつです?」
「19」
「……」
「なぜ黙るんです?!」
女性のプライベートトークをこれ以上盗み聞きするのは良くないな。
俺はそっと立ち去り、管理人室へ向かった。
ネルが迎え入れてくれる。
ヨツバは何か書いていたが、それを仕舞いこちらを向く。
「わーい! 猫さん、遊ぼー!」
「こんにちは」
『よし、お絵かきしよう』と書く。
俺はヨツバに近付き、日本語で相談内容を書いて見せる。
ネルには、俺が意味不明な物を書いているようにしか見えないはずだ。
「猫さん、それってどこか外国の文字?」
……ネルでもさすがにそれくらいは分かるのか。
「猫さんはこの世界でどのように生きたいですか。
それによって答えは違ってきます」
ヨツバは日本語で答える。
思えばこの世界の言語って、日本語じゃないのに日本語みたいに聞こえるんだよなぁ。
ま、ネルには理解できないはずだ。
「ヨツバが外国語を喋り出したー!」
……ネルって実は勘が鋭いのかもしれないな。
「爵位と領地を貰うのは、飼い慣らしルートです。
自由度は低くなるでしょう。
色んな国で活躍したいのならお勧めはしません。
貰わないのであれば、自由度は高くなります。
ただし、何か事業をするために商人や貴族の顔色を窺(うかが)うこともあるでしょう。
もし一つの国にずっと留まるつもりなら、貴族になる方が快適に暮らせるかもしれません」
ふーむ、なるほど。
『ちなみに、国を乗っ取るというのは?』と書く。
アウレネ達の案をヨツバはどう考えるだろうか。
「魔王にでもなるつもりですか?」
やはりこの案は無いな。
国政とか、俺に出来るとは思えない。
ちなみにヨツバには、俺が魔王だとは伝えていない。
バラした時、討伐するとか言われたら悲しくなる。
うむ、ヨツバの意見を参考にするのなら、爵位と領地を貰うことになるな。
だが、領地の管理なんて面倒すぎて嫌だぞ。
それに、国防を担うとかいう荒事は、俺には向いて無さそうだ。
うん、決めた。
『何も貰わない。何もしない。現状維持で』と書く。
「国防なんて、現代知識で何とかなる気がしますが」
『軍事舐めるなよ』と書く。
現場を渡り歩いた者にしか分からないノウハウだってたくさんある。
素人の俺がひょっこり参加しても足手まといになることだろう。
というわけで、王様の誘いは断ることにした。
手紙を後でマック君に託しておこう。
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