161.厚顔無恥ここに極まれり
翌日。
俺は雑貨屋クローバーで、作り置きのバッタ焼きを食っていた。
このプリプリの身がたまらん。うまい。
ガチャリとドアが開けられ、ネルとヨツバ、ナンシーさんが来店した。
「いらっしゃいませー」
リオン君はナンシーさんの相手をしている。
ナンシーさんは最近、石鹸にはまっているらしい。
リオン君相手に値切り交渉をしている。
ヨツバは俺の所にとてとて歩いてくる。
交換日記にて、犯人を捕まえたことは報告してある。
「猫さん、昨晩はありがとうございます」
『気にするな。
俺が手を下さなくても、そのうち憲兵や勇者達がどうにかしていただろうよ』と書く。
「勇者ですか。そういえば彼らの動向を最近聞きませんね」
「猫さんみーつけた!」
商品の山の物陰に居た俺とヨツバをネルが見つける。
「何食べてるのー?」
『バッタの焼いた奴』と書き、ネルに渡す。
しかし、ヨツバがそれを没収し、【四次元空間】に仕舞う。
「ちょっと! 何を食べさせようとしていたのですか!」
ヨツバが俺に怒る。何故だ。
美味しいのに、バッタ焼き。
「ありがとうございましたー」
ナンシーさんの買い物が済んで、ネル達は帰って行った。
◇ ◇ ◇ ◇
店で昼のシュークリームが売り切れるのを見届け、そろそろ帰ろうかと思っていた所に珍客が来た。
王様とその取り巻き達だ。
「いらっしゃいませー」
「うむ、店主。この店に魔お……げふんげふん。
太い茶色の不思議な猫は居らっしゃるか?」
「にゃー(どうした?)」
俺は姿を現す。
王様直々に俺に用とは、ただ事ではないぞ。
「済まないが、緊急の要件があるのだ。
城まで来ていただけぬか?」
◇ ◇ ◇ ◇
俺はリオン君に店番を任せ、城の王の間にやって来た。
「ここから先の話は内密に頼みたい」
王様に対して『いいぞ』とタイプライターで打つ。
俺が打った文字は、防衛大臣さんが読みあげてくれるらしい。
「実は……勇者達に逃げられた」
ふうむ?
逃げられたって何だ?
ペットみたいに飼い慣らしていたつもりだったのだろうか。
「勇者が居ないということは、言い換えれば兵力が大幅に減ったことに他ならない。
このことがバレたら……いや、いずれバレるだろう。
そうなったら、隣国や亜人国、魔獣国に狙われるかもしれない」
『あの子ども達に頼り過ぎていたんだろう。
それは自業自得じゃないのか?』と打つ。
勇者達を人間でなく兵力としか見ていない。
そんなだから愛想を尽かされたのではないだろうか。
さすがの俺でも怒るぞ、そんな扱いをするというのなら。
「そこで大魔導士殿。兵力を増強するまでの間、どうか国防に参加してもらえないだろうか?
もちろん、しかるべき報酬、地位、爵位は賜るつもりだ」
厚顔無恥ここに極まれり、だ。
お前、俺を魔王と知った時討伐しようとしただろうが。
そのくせ、都合が悪くなった時は俺に泣きつくのか。
人を馬鹿にするのもいい加減にしろよ?
俺は猫だが。
怒りに任せて『断る』と打とうとした。
でも、ヨツバやアウレネ達に相談すべき内容だろうかと思い直し、『ちょっと考えるから、後で返事する』と打つ。
そしてタイプライターを仕舞い、部屋を出て行くことにした。
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