160.闇ギルド、魔王に滅ぼされる


宿にて、ヨツバが近づいて耳うちしてくる。

ネルは昼寝中。ナンシーさんは仕事中だ。

マック君は、錬金術指南の本が書きあがったらしく印刷所に持ち込みに行っている。



「強盗の件、どうなりましたか?」



何者かが店を強襲しムチャクチャにしたあの1件以来、店にはオリバー君を配置している。

なので、店自体には問題ないとは思うが。



「強盗、捕まりましたか?」



俺は両手を広げ、分からんとジェスチャーする。


この町のことを何でも知っているというわけではない。

さすがに強盗の逮捕は憲兵の仕事だ。



「もし捕まってないのなら、私達が捕まえましょう」


おいおい、何を言っているんだ。

放っておくとヨツバが暴走しそうなので、『危ないことに首を突っ込むな』と書く。


「リオン君が傷つけられたのです。

許せません。相応の報いを与えるべきです」



ヨツバは目をギラギラさせていた。

人間関係に割とドライなヨツバでも、さすがに怒ることはあるんだな。


まあ気持ちは分かる。俺だって、リオン君を傷つけた奴らを許すつもりはない。

なので『後で捕まったかどうか確認して、もし捕まってないなら俺が捕まえておいてやるよ』と書く。



「頼みましたよ、猫さん」


「ネルー? ちょっと買い物に行ってきて欲しいんだけど。

って、ヨツバをほったらかして寝てるじゃないの。

仕方ないわね」



ナンシーさんがネルを起こし、ネルに買い物を頼んだ。

俺も付いて行くことにした。

ついでに【探索】で、強盗が見つからないか試してみよう。



◇ ◇ ◇ ◇



夜。皆が寝静まった後。


俺とリオン君、オリバー君の3人で、町から外へ出て、北方面の草原をさまよう。

とある洞窟目がけて。


月?明かりを頼りに10キロほど進むと、やがて1つの洞窟を発見し、雑草の物陰からこっそり眺める。

入口には見張りらしき男が2人ほど、あくびして座っていた。

中では男どもの下品な笑い声を上げていたらしく、それが俺の所まで聞こえる。


この洞窟は、闇ギルド『悪魔の爪の垢』という犯罪者集団が使っている拠点らしい。

【探索】と【鑑定】で、どこの誰が強盗をしたのか探っていたら、この洞窟が浮かび上がったのだ。


洞窟の連中を外から【鑑定】するが、全員犯罪者だった。


なぜ憲兵がこんな場所を放っておくのかと思ったが、そもそも彼らはこの場所自体に気付いていないのだろうな。

あるいは、見つけた憲兵は始末されたか。


とにかく、俺はこの洞窟の連中を憲兵に引き渡すことにした。


入口の男の前に俺は姿を現す。



「あん? 何だ、野良猫か。しっしっ」


「太いぞこいつ。町で良いモン食ってるんだろうなぁ」



飛びかかり、男達の胸に触る。その瞬間、男達が倒れる。

リオン君とオリバー君が現れ、男達を縛る。



「旦那すげぇ! 一体何したんだ?!」


「心臓が止まっているのだッ! ……死んだのかッ?」



ちょっと心臓にカリウムを分離錬成で集めて、不整脈発作を起こしただけだ。

錬金術を人や魔獣相手に使うためには触れなければ駄目なのだが、ひとたび触れたらこのような恐ろしいことも出来る。

男達が縛られたのを確認した後、回復してやった。



「……はっ?! いったい何がもごごご……」



意識を取り戻した男達の口にオリバー君が布を詰め、追加の布で口を巻く。



「この調子で、洞窟内を征圧するのだッ」


「おう!」



俺が突入し男達を眠らせ、オリバー君達が縛りあげる。

それを繰り返し1時間足らずで洞窟を征圧した。


それからリオン君とオリバー君に頼んで町から憲兵を連れてきてもらい、後始末は憲兵達に任せることにした。


こうして闇ギルド『悪魔の爪の垢』は一晩のうちに消滅したのだった。


なお、捕まった者たちは、悪名高くて罪の重い者は死刑。

止むを得ず闇ギルドで働いていた、罪の軽い者は奴隷落ちとなったらしい。

憲兵の兄さんが店に来て教えてくれた。

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