159.魔王、侵入者を払う02


・侵入者視点



新たな魔王は、フランベルの森に住んでいるらしい。


国境を超え、我ら飛竜軍はこの森上空までやって来た。



「クゥクゥ!(油断するなよ! ここは既に敵地!

空を飛んでいるからといって舐めていると、撃ち落とされるぞ!)」


「クゥゥ!(はい! 竜魔王様!)」



我は竜魔王と呼ばれているが、実際は魔王ではなく【エセ魔王】。

つまり魔王候補の1体に過ぎない。


魔王を排斥することで、本物の【魔王】称号を手に入れ、我が世界を牛耳るのだ。


魔王ゴルンが1年で魔王トミタに排斥されたようだが、彼は脳筋が過ぎた。

その点、我は違う。

こうして空を支配し、空から森を火炎ブレスで焼きつくす。

敵は手も足も出ずに焼死体と化すだろう。


そろそろ作戦に移ろうとした所で、空に1つの裂け目が現れた。


裂け目から現れたのは、赤く燃えて光る巨大な石。

それが、山のような巨体をした竜を作り出す。



「クゥク!(何だこの竜は?!)」



我は竜を鑑定する。


――――――――――――――――――――――――

鑑定結果

名前:トミタ

Lv:73(9806歳)

種族:巨竜

スキル:【熱線Lv100】【猛毒の息Lv100】【突撃Lv100】

【ヒールLv100】【MP消費軽減Lv7】

ステータス:

HP 2,639/2,639 MP1,800/1,855

ATK482 DEF346 MAT457 MDF298 SPD599 INT381 LUK112

称号:【魔王】【森の主】

近付く魔獣を焼き滅ぼす、恐怖の竜。

最近魔王になったらしい。

――――――――――――――――――――――――


魔王直々のお出ましか!

それにしても、何だこのステータスは?!

……いや、【鑑定偽装】しているだけかもしれない。

実は大したことな



「オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」



すぅぅぅぅぅううううう!

巨大竜が息を吸い込む。

ま、まずい! 何か吐くつもりだ!



「ア゛ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーー!!!」



巨大竜が輝く太い光線を放つ。

森の隣の砂漠に光線が落ち、そこが溶けて赤い液体になる。

なんて熱量だ、信じられない。

【鑑定偽装】なんてとんでもない。

これは間違いなく、この竜の実力だ。


巨大竜がこちらを振り向く。

冷や汗が止まらない。



「クゥク!(撤収! 皆、撤収ー!)」



我々は逃げることにした。勝てない。

あんな規格外の化け物、見たことも聞いたこともない。

あれが魔王トミタか。


我の事前に集めた情報によれば、魔法が使える猫だという噂だったが、噂は嘘だったようだ。

おそらく魔王の配下の魔獣と間違えたのだろう。


魔王トミタは我々を追ってこず、静かにこちらを見ていた。

殺すまでもない、ということか。

実際力の差は歴然。

次に挑んでも負けてしまうだろう。


我は竜族の集団の1つをまとめ上げただけで天狗になっていた、ということか。

あんな存在も居るとは、世界は広いものだ。



◇ ◇ ◇ ◇



・トミタ(猫)視点



オリハルコンを体にまとわせた巨大竜のオブジェによって、侵入者さん達は帰ったようだ。

オブジェには【鑑定偽装】を使って、魔王トミタであるように偽っていた。


侵入者は、俺の小さな体を見て舐めてかかるだろうから、逆に巨大オブジェで驚かせてやったのだ。

内部に入り、鳴き声は岩をこすり合わせて出し、息を吸い込む動作は変性錬成で空気を圧縮し陰圧を作って外気を取り込んだ。

熱線は、圧縮した空気に乗せて石を吐きださせた。高速で飛びだした石は燃えて溶けたらしい。


怪獣映画を再現しているみたいで、割と楽しかった。



「バステト様、お疲れ様です!」


「にゃー(ありがとう)」



差し出された布で顔を拭く。おしぼりで顔を拭く俺、オッサンである。


エルフ達は、俺が錬金術で何かやっていたのを知っているので、特に驚いたりはしなかったようだ。


エルフの子ども達が、もう一度見せて欲しいと言ってきたので、リクエストに応えることにした。

巨大怪獣オブジェをもう1つ作って、怪獣合戦にしようか。


後日。森に巨大魔獣が現れたという都市伝説が、町に語られることとなる。

そして、あれ以降、魔獣の襲撃はしばらく無くなってしまった。

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