94.コンタクト開始



ネルとの思い出を粗方書きつくしたので、ついでに王様宛ての手紙も書く(打つ)ことにした。

内容は、フランベルジュのことについてだ。


3年前、古竜フランベルジュが、石像として蘇ったこと。

町に入ったら攻撃されたこと。

今は俺の家に住んでいること。

何かチヤホヤされたがっていること。

それらを手紙に盛り込んだ。


明日は、この手紙をマック君に渡すことにしよう。

彼女は王様に世話になっているらしいから、手紙を王様に届けてもらうのだ。


◇ ◇ ◇ ◇



翌日。俺は宿屋にお邪魔する。


宿に着くなり、マック君に頭を下げられる。



「猫さん! 王様がドワーフ達にタイプライターの追加注文をしたんだけど……。

あの特性スポンジがないと、タイプライターが作れないんだ!

どうか作ってくれないだろうか!」



俺は木の板に、スポンジの設計図を書き、マック君に渡した。

この微妙な気泡の割合は、独学では作れまい。



「ううん……ボクでも作れないなこれは。

猫さん、ひょっとしてボクよりも錬金術を極めてないかい?」



ん? そうなのか?

俺は木材を取り出し、【変性錬成】で作ってみる。

木材は薄いスポンジシートになった。

食物繊維で作った物なので、ポリウレタン製のスポンジに比べたらチャチな出来だが。



「おお! さすが猫さん!

さっそくドワーフ達に渡してくるよ!」



マック君は走って宿から出て行ってしまった。

手紙を渡すつもりだったが、後でもいいか。



「ネルー。ママちょっとお昼寝するから、ヨツバの面倒お願いしてもいいかしら?」


「はーい! 猫さん、こっちだよー」



ネルに付いていって管理人室に入ると、目にクマが出来たナンシーさんが居た。

この前のことがあって、ヨツバのことが心配で寝不足になったのだろうか。


しばらくして、ナンシーさんは眠ってしまった。

ネルは、宿の前の『営業中』と書かれた札を取り外し、戻ってきた。



「猫さん、ヨツバはね、本を見せたり読み聞かせると、とっても喜ぶの」


『そうか。ならこれはどうだろう』と書く。

そして、以前作った日本語の文字盤を取り出す。



「あーうー」



文字盤をヨツバの手が届くところに立てかける。

ヨツバはぺたぺたと文字盤に触る。

……おかしい、首がすわっている。まだ2ヶ月以上かかるはずだぞ。



「可愛いなぁ」



ネルはこの光景を無邪気に見ているが、この文字盤が日本語だと知らないからだろう。

赤ん坊のヨツバは意図した順番に文字盤を触っていたのだ。

『はじめまして、ねこさん』という順番で。


やはり日本語が通じるのか。

間違いない。この赤ん坊、前世の記憶を持っている。


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