93.ネルに感謝してる
翌日、俺は自宅でタイプライターで書き物をしていた。
ガチャリガチャリという音が辺りに響く。
「にゃんこさん、その機械すごいです~。
私にも貸してください~」
アウレネがタイプライターに興味を持ったみたいなので、キリの良いとこで中断し、貸してやることにした。
「あはは~! 楽しいです~!」
アウレネは、俺の観察日記を書いていた。
俺が無意識にやっていたあくびやら、しっぽブンブン(怒っている時のこと)などを。
そんなくだらない事を書いてどうするつもりだ。
やがて満足したのか、タイプした紙を取り外し、シルフ婆さんに見せに行った。
俺は書き物を再開する。
書いているのは、ネルと過ごした日々の思い出だ。
森に勝手に入って母に怒られていた事、買い物で鳥肉を買って重すぎたのをマック君に助けられた事、シャムちゃんとボール遊びを一緒にした事、風邪をひいた時俺が看病していた事……。
俺がこんな意味のわからない世界で、猫の姿でもめげずに過ごせているのは、ネルによるところが大きい。
いつだって俺を無償で褒めてくれる温かい存在。
41歳のオッサンだった俺が当時4歳児に癒されるというのは、現代社会的に考えると非常にアレだが。
仕方ないさ。人が恋しかったんだよ。
俺はこの世界で、家族も親戚も友人も知り合いも居なかったんだからな。
俺はネルに感謝している。
その気持ちを、こうして記そう。
いつか彼女が大きくなった時に、この書き物を手渡すのだ。
「おおー! アウレネや、何じゃこの素晴らしい読み物は!
まるでバステト様が目の前に居らっしゃるかのようじゃ!」
「自信作です~」
……人が思い出に浸っている時に、外の阿呆どもが騒がしい。
俺は人じゃなくて猫だが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます