90.圧倒的に速い!
翌日、俺は再び町へ入り宿屋へ来た。
「猫さん、いらっしゃい!」
ネルが迎え入れてくれる。
やはり子どもは笑っている方が良い。
さて、今日は何するかな。
ヨツバと会話したいのだが、今はナンシーさんが面倒みてる。
それを邪魔するわけにもいかない。
後で機会があれば会話を試みるとしよう。
俺はネルと一緒にマック君の部屋に入る。
相変わらず雑然とした部屋だ。
「猫さん、とうとう完成したみたいだ!」
マック君が銅製の機械を両手を使って持っている。
おお、完成したか!
1ヶ月かからなかったな。職人は腕が良いみたいだな。
俺の目の前に置かれた、異世界言語が書かれたボタンが並んだキーボード状の機械。
そう、タイプライターだ。
タイプライターとは、文字のボタンを打つことで、セットした紙に文字を打ち込んでくれる機械だ。
パソコンとプリンターが普及した現代ではすっかり影を潜めてしまったが、それまでは文書作成の心強い味方だった。
「王様には既に1つ献上してるよ。これは猫さんの分だ」
マック君からタイプライターを受け取る。
「じゃ、インクを注ぐよ」
インクが注がれ、文字を打ち込むピン状のハンマーの文字部分にインクが付く。
インクリボン? そんなもの作れるわけがないだろう。
俺が錬金術で作った特性スポンジにインクを染み込ませている。
よし、さっそく使ってみよう。
俺は紙を取り出し、セットし、文字を打つ。
ガチン、ガチン、ガチン、ガチン。
『スキルの仕組みおよび使い方とその応用について』っと。
文字を打つ度に、きちんと紙がスライドしていく。
改行っと。よし、上手く出来てるな。
「おお! 凄い! 手で書くよりも圧倒的に速い!」
甘いぞマック君。俺が慣れていないから、まだこのスピードは遅い方なのだ。
いずれこの倍以上のスピードで打つことが出来るようになるだろう。
俺は試し書きにと、この異世界におけるスキルの仕組み、使い方、応用について、自分の簡単な考察を打った。
以前ヨツバを治しに森で疾走してた時に考えていた、アレだ。
10分くらいして、俺は試し書きを終えた。
紙をセットから外す。
「って、何だこの内容は! 凄い! まるで研究者の書いた本の一節のようじゃないか!」
「ニコ、それって何が凄いの?」
「あのね、ネルちゃん。
この1枚の書き物は、安い本1冊よりずっと価値のあることが書かれているってことだよ」
「つまり猫さんは凄いってことだね!」
「その通りだ!」
そんな小さいことで、いちいち俺を持ちあげるな。
褒めるなら、もっと大事業を成功した時にでも褒めてくれよ。
まあいい。恰好の暇つぶし道具が手に入ったぞ。
今日はネル達と遊ぶことにして、森に帰ったら存分に楽しむことにしよう。
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