86.植樹



俺は金髪少女アウレネとともに、森の西端に隣接する砂漠に来ていた。



「そう、そこで詠唱です~。『大地に芽吹け。スプラウト』」


「にゃー(『大地に芽吹け。スプラウト』)」



先ほどアウレネから教えてもらった魔法を使う。

俺達の植えた種が芽生える。


アウレネと俺は森を拡張するために植樹しに来ていた。

紙を大量生産するために木が必要だから、森を広げるのだ。

気の長い作業だが、今後の木の需要を考えると、早めに取りかかっておきたい。


森から持ってきた土に軽く灰を混ぜ込んだものを地面に盛り、そこに種を埋める。

そして四次元空間から水を掛けて、先ほどの魔法で芽を出してやる。


この種はデザートアプルという、砂漠でも育つ木だ。

申し訳程度の果実も実につけるらしい。



「『大地に芽吹け。スプラウト』」


「にゃー(『大地に芽吹け。スプラウト』)」



次に埋める種はデザートビンズという、砂漠でも育つ豆。

土壌を豊かにするらしい。豆も食用だ。



「『大地に芽吹け。スプラウト』」


「にゃー(『大地に芽吹け。スプラウト』)」



デザートオークという木も植えることにする。

固くしなやかな木材になるらしい。



「『大地に芽吹け。スプラウト』」


「にゃー(『大地に芽吹け。スプラウト』)」




現在のフランベルの森の面積は、俺が来た当初よりも1.2倍ほどに広くなっている。

アウレネがコツコツ森を広げているのだ。


彼女が言うには、森とは故郷であり、よき隣人であり、守護者である。

エルフ族は森とともに生きているのだとか。



「『大地に芽吹け。スプラウト』」


「にゃー(『大地に芽吹け。スプラウト』)」



俺も薬研究者の端くれとして、薬草を栽培している温室にはちょくちょく顔を出し、世話を手伝ったりしていた。

まあ本格的な世話は農学部卒の連中が行っていたが。


ああ、懐かしいなぁ。ベラドンナ、柳、トリカブト、ジギタリス、アロエ……。

数百種類の植物に囲まれるだけでも、癒されたものだ。

森のどこかに薬草畑でも作ろうか?

いや、世話をする人が必要になるから、今は無理だな。



「『大地に芽吹け。スプラウト』」


「にゃー(『大地に芽吹け。スプラウト』)」



そんな、戻らぬ日々を懐かしみながら、俺は植樹(豆は植樹じゃないが)作業をしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る