83.赤ん坊の名前決定
俺は猫の集会にやって来た。
しかし、いつもの長老の姿が見えない。
「にゃー(長老はどこだ?)」
「にゃん(それが……)」
ん? 歯切れが悪いな?
……まさか長老に何かあったのか?!
「にゃー(長老様は……若い雌猫にナンパして、向こうでにゃんにゃんしています)」
「にゃ(心配して損した!)」
ナンパって、おい。ジジイのくせに何やってんだ。
「にゃー(猫又様は、そういったことに興味ないので?)」
「にゃん(無いな)」
俺は猫のくせに、他の猫に対してこれっぽっちも性欲は沸かない。
年のせいか、それともこの体は猫とは違うのか。
さらに、人間に対しても、特にそういう感情も沸かない。
自分のことながら、よくわからないな。
ま、考えてもあまり意味の無いことだ。
今日もネルの所に遊びに行くことにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇
「というわけで、猫さんにも赤ちゃんの名前を考えて欲しいんだ」
「よろしくね!」
宿に着くなり、マック君とネルに頼まれた。
何が、というわけで、だよ。
無茶振りもいいところだ。
その期待したまなざしをやめてくれ、俺にセンスなんてあるわけないだろ。
とりあえず『ナンシーさんに、将来どんな風に育って欲しいか聞いてくれ』と書く。
「ん? それって名前に関係あるのかい?」
大ありだ。
親の希望や夢を名前に託すのは当たり前のことじゃないか。
……待てよ? 日本とは文化が違うのか?
まあいい。
『いいから聞きに行くぞ』と書く。
俺達3人はナンシーさんの部屋に来た。
赤ん坊を寝かしつけたらしい。
「あら? どうしたの?」
「ママ! あのね! 赤ちゃんが将来……」
「しーっ。小さな声でお願いね」
「赤ちゃんが将来、どんな風に育って欲しいかを聞いてもいいでしょうか?」
「そうねぇ。適当にお金持ちの貴族を捕まえてくれたら、老後が安心ねぇ」
なんつー夢のない話だ。
「ま、何でもいいわ。この子が幸せにさえなってくれたらね」
「宿を継いで欲しいとか、あるのでは?」
「それはこの子が決めることよ。
親が押し付けた所で長続きしないわ。
そんな甘い商売じゃないのよ」
ナンシーさんには、ナンシーさんなりの人生観があるらしい。
それにしても『幸せ』、か。
名前に反映するのは難しそうだ。
日本だと幸子、とか出来るんだけど。
俺達はマック君の部屋に戻り、うんうん考えるが、良い名前は思いつかない。
ん~、花言葉で逆検索するか。
花言葉で『幸せ』って、どの花だ?
教えて鑑定魔法さん。
――――――――――――――――――――――――
鑑定結果
花言葉『幸せ』:カーネーション(永遠の幸福)、コチョウラン(幸福が飛んでくる)、バラ(幸福)
ゼラニウム(君ありて幸福)、ベゴニア(幸福な日々)、ドラセナ(幸福)、ポトス(長い幸)
アヤメ(幸せは必ずくる)、クローバー(幸運)、チューリップ(幸福)
……
――――――――――――――――――――――――
多いって。
俺としては、この中だとクローバーがいいなぁ。
そうだ、四葉なんてどうだ?
四葉のクローバーって、いかにも幸運そうじゃないか?
というわけで、俺は『ヨツバ』という名前も候補に入れるように頼んだ。
ジジババが考えた名前や、俺達が考えた名前を聞いて、ナンシーさんが最終的に娘の名前を『ヨツバ』に決めた。
俺の案が採用された。やったぜ。
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