73.暇すぎる



夜。

俺はウッドハウスの木の頂上に登り、竹製つまようじで歯磨きしつつ一人でぼーっとしていた。


最近生活が安定してきた。

俺は特に何も苦労することなく日々を過ごしている。


そのせいか……暇すぎるのだ。


3日に1日ネルの所に行っているが、あとの2日は森で適当に過ごしているだけだ。


生前は、起きたら新聞と論文を読んで、夜中まで会社の研究室に籠って、疲れたら帰って寝る、の繰り返しだった。

忙しいが、それなりに充実していた日々だった。


膵臓癌で入院してからは、研究の引継ぎを済ませた後はひたすらネットで動画三昧。

たまに若い連中にアドバイスしたり論文の英訳の手伝い。

たった数ヶ月の入院生活だが悪くなかった。


それが今ではどうだ。

食っちゃ寝、食っちゃ寝、の繰り返し。

だらだらと過ぎて行く日々。


このままでは駄目だ。

何かやり甲斐のある趣味を見つけなければ。

本気で駄目な人間になってしまう。

ん? 人間じゃないから駄目猫か。


明日はネルとマック君に会いに町に行く予定だ。

二人に相談してみよう。


いや、その前にそこの二人に聞いてみるか。


俺は木を降り、弓矢の練習をしているアウレネと、それを眺めているシルフ婆さんを呼ぶ。



「どうされましたかバステト様」


『何か良い暇つぶしない?』と書く。


「にゃんこさん、暇なんです~?」


「にゃー」



俺は頷く。



「なら、すぐそこにある人間の町を侵略しましょ~」


『却下だ』と書く。


「アウレネや、バステト様がそんな小さなことで満足なさるはずがなかろうに。

そうじゃな……世界征服なんてどうじゃ?」



こいつらに相談した俺が馬鹿だった。

やはりネルかマック君に聞くことにしよう。


俺はウッドハウスに入り寝ることにする。

おやすみなさい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る