72.うどん
翌日の朝。
朝食を済ませた俺とシルフ婆さんは、向かい合って丸太テーブルに着き、チェスを遊んでいた。
チェス道具一式はマック君から貰った。
貴族の遊び道具らしい。
「ふふ、バステト様、チェックメイトじゃ」
「にゃー(馬鹿なぁぁああ!)」
これで今週は8連敗。
人間だった頃は、たまに海外に学会に行き、ついでに向こうの奴らと酒を片手にチェスをやっていた。
その時だって、こんなに負けたりはしなかった。
シルフ婆さんは、俺が知ってる中で一番強いんじゃないだろうか。
「さて、もう太陽が高くなったみたいじゃ。
昼食はどうするかの?」
もうそんな時間になるのか。
俺は高床式倉庫に上り、木の実をいくつか持ち出す。
かまどで火を焚き、実を焙る。
それをシルフ婆さんに渡した。
婆さんはポリポリと食べている。
そういや、婆さんまだ自分の歯があるんだな。
というかこの世界に入れ歯があるのかは知らないが。
「にゃんこさ~ん。
お魚、獲ってきましたよ~」
素焼き粘土の壺を持ってアウレネがやってきた。
3年前は魚の獲り方を知らなかったみたいだが、罠の使い方を教えてやったら翌日から獲って来るようになった。
まあ仕掛ける場所や方向に注意すれば、難しくないしな。
俺は竹串をアウレネに渡す。
彼女が魚に串を通し、かまどの近くに突き刺し焼く。
「う~ん、同じメニューばっかりだと飽きます~。
にゃんこさん、何か料理知りませんか~?」
残念ながら俺は飯に関してはあまり知識がない。
というか、使える材料の種類が少ないんだよなぁ。
ああ、そうだ。
アレなら作れそうだ。
俺は小麦粉を取り出す。
ネルに頼んで買ってもらったものだ。
俺は食わないが、シルフ婆さんとアウレネ用にと購入した。
小麦粉に水を加え、塩を投入してこねる。
こねる。こねる。こねる。
……生地に俺の毛がたくさん入った。
駄目じゃん。
せっかくうどんを作ってやろうとしたのに。
「にゃんこさん、何を作ってるんです~?」
『うどんの麺。失敗したけど』と書く。
「失敗?」
『毛が入った』と書く。
こうなったら意地でも作ってやるぞ。
俺は木を棒状に削り、念動力で操って新しく用意した生地をこねる。
それを銅のナイフで切り分け、予め沸かしていた水に入れる。
さらに若菜と肉、塩を入れて味を調える。
「にゃー(よし、出来た)」
「わ~! おいしそうです~」
アウレネは木のフォークで、俺の作ったうどんを食べて喜んでいた。
シルフ婆さんが羨ましそうな目でアウレネを見ている。
あんたさっき昼飯食っただろ。
仕方ないからアウレネに分けさせた。
シルフ婆さんは変わった麺じゃなぁと言いつつ食べていた。
俺は魚を食べる。
魚をたくさん焼き過ぎたから、食いきれない分は四次元空間に収納しておこう。
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