57.シャムちゃん(人間)


夕方時。


俺が宿屋の扉をノックしたら、ナンシーさんが出た。



「あら、猫さん。

ネルに会いに来たのかしら?

あの子なら向こうのパン屋の所に遊びに行ったから居ないわよ」



そう言って、ナンシーさんは中に入りパタンと扉を閉めてしまう。


ネルに会いたかったのだが、どうしたものか。

猫だからパン屋なんかに突入したら、衛生的に悪いだろうし。


よし、宿屋前で待っていることにしよう。


俺はひさしの下に木箱を取り出し、そこに入る。

この閉塞感がたまらん。


……すやぁ。



◇ ◇ ◇ ◇



「本当だよ! 猫さんはとっても凄い猫さんなんだよー!」


「はいはい、良かったねぇ」



ネルの声と、女の子の声が聞こえたので起きる。


向こうから黒髪を揺らして歩いてくるネルと、赤髪の10歳くらいの少女がやって来た。



「あーっ! 猫さんだー!」


「へー、この猫がそうなの?」



赤髪少女は俺を持ちあげる。



「お、重っ。あんた太り過ぎよぉ」


「ネルも! ネルもだっこする!」


「ネルちゃんは、あと3年くらいしないと無理ねぇ」



俺の予想では、あと5年くらい成長しないと、だっこはキツイと思うが。

頑張って痩せようかしら。


少女は俺を下ろした後、扉を開けて、叫ぶ。



「おばさーん! ネルちゃんと遊んであげましたよぉー!」


「はーい。ありがとうね、シャムちゃん」



ナンシーさんが扉を開けて答える。

この少女はシャムというのか。



「シャムお姉ちゃん、ありがとう!」


「はぁ~、ネルちゃんは可愛いなぁ。

また遊ぼうねぇ~」


「うん!」



少女シャムは手を振って帰って行った。

俺は自分の木箱を四次元空間にしまう。



「猫さん! またご本読んであげるね!」



さっきまで遊んでいたというのに、まだ本を読むだけの体力があるのか。

俺がネルくらいの年だったら、そのままぐっすり寝てしまうだろうが。


と思っていたが、案の定、夕食後の読書中にうつらうつらしていた。

『もう寝ろよ』と板に書く。



「でも猫さん、明日帰っちゃうんでしょ?」



ええい、子どもが無理をするんじゃない。

『明日も一日中付き合ってやるから寝ろ』と書く。



「ありがと、猫さん」



ほどなくして、ネルは眠ってしまった。


彼女をベッドに移し、布団をかけてやる。

俺も寝るとするか。


ネルの近くで横になる。

おやすみなさい。


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