55.今日は見逃してやるですよ~
・勇者の高無勇視点
俺達はキラーボアの肉を魔導士の猫から貰い、それを食って満足した。
「ここで寝てもいいか?」
だいぶ暗くなっているので、俺達はここで野宿させてもらおう。
掘りと石壁で守られているこの場所なら、それなりに安全だろう。
猫は『いいぞ』と板に書く。
俺は四次元空間からなめした毛皮を取り出す。
この【四次元空間】スキルも、世間ではチートスキル扱いされているみたいだ。
俺にはただの便利な無限収納空間にしか感じられないが。
それに、この【四次元空間】、魔獣は収納できない。
いや、収納できるのだが、中で暴れられると俺にダメージが入るから駄目なのだ。
魔獣を収納するとしたら、動かないor大人しい奴じゃなきゃ無理だろうな。
他の2人も四次元空間から毛皮を取り出す。
が、茶髪の女、安沢宮が顔を引き締め、俺達に耳うちする。
「エルフが石壁のすぐそこに居るわよ」
「そうか。おい! 隠れてないで出てこい!」
俺が声を荒げると、石壁からひょこっと金髪エルフが顔だけ出す。
「にゃんこさん、私の弓を返してください~。
そこの人間達に撃ち込んでやるです~」
エルフは俺達に敵意を持っている。
それはそうか。
人間に同胞を捕らわれたり殺され、里を追い出されたら、誰だって復讐しようとするだろう。
「俺はもうアンタをむやみに襲ったりしねーよ。
だからそっちも俺達を奇襲しようとするな」
「そんな風に、人間は言葉巧みに私達エルフを騙したですよ~。
心優しい仲間は、それでほいほい人間について行って、そのまま奴隷にされたですよ~」
そんなことをした奴までいたのかよ。
警戒されて当然だな。
「アンタが信用しないのは無理ねーな。
でも、ここにいる猫が教えてくれたんだ。
俺達人間は、ずいぶん酷いことをしてたらしいな」
「にゃんこさんが?」
猫は『おう』と書く。
「おい猫、そのエルフに弓を返してやれ。
お前ら、武器と防具を外して猫に渡せ」
「はぁっ?! アンタ何言ってんの?!」
「俺達はもう王国の言いなりにはならない。
エルフを無意味に狩ったりしない。
その意思表示だ」
勇者ってのは、正義の味方であり、弱い者の味方だ。
決して王様の道具じゃない。
俺は猫に手持ちの剣と防具を渡す。
他の2人も、しぶしぶ武器と防具を猫に渡した。
猫はそれらを四次元空間にしまう。
そして、猫はエルフの元に向かい、弓を渡す。
それから、『あいつらを信用してやってくれ』と書いていた。
「……」
エルフは石壁を乗り越え、無言で矢を取り出し、弓を構えて俺達へ向けた。
「……」
俺には【聖剣】スキルがあるが、今はそれを発動すべきじゃない。
5分、10分……無言の時間が続く。
しばらくしても、弓から矢は放たれることはなかった。
「……仕方ない、今日は見逃してやるですよ~」
そう言って、エルフは弓をおろし、ウッドハウスに向かい、そこに入った。
俺達はこのまま毛皮に包まり、野宿することにした。
夜の間、猫がずっと木炭で火を焚いていてくれた。
ありがてぇ。
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