54.勇者と遅い夕食



夜、俺は森の自宅へ帰った。

俺が本気で帰れば、30分足らずで帰ることが出来る。


王様からの金品は断った。

俺としては、森で生活するのを認められたのが大きい。

猫だから土地を買うってのが出来なかったからな。


さすがにこれ以上は貰い過ぎだ。


ウッドハウスに入り、王様からもらった木箱を取り出す。

この狭さが素晴らしい。

今日から俺のベッドにしよう。


俺は角に頬をくっつけて昼寝することにした。

おやすみなさい。



◇ ◇ ◇ ◇


ん?

誰かが石壁内に入ったらしい。


俺は家から出て【ライト】で照らす。


勇者少年3人組みだ。

今までアウレネを探していたのか。



「おい、野良猫。エルフは居るか?」


『居ないぞ』と書く。


「そうか。それと俺達は腹が減った。

食事を用意しろ」



少年がそう言ったら、少女が少年の頭をはたく。



「あんたね! それが人に物を頼む態度?」


「人じゃなくて野良猫じゃねーか」


「森の大魔導士様でしょ!

私達の命の恩人よ!」


「ハッ! どうだかな。

エルフと仲良くしてるみたいだし、信用できねぇな」


俺は『どうしてエルフを敵視する?』と書く。


「ああ? 何言ってるんだ?

エルフは魔王に味方してるんだぞ?

殺されて当然だろう?」


『個人的な恨みは?』と書く。


「個人的な恨み? そんなものねーよ。

俺が勇者様だから、弱い下民どものために魔王を滅ぼしてやるんだ」



どうやらこの少年は、思いあがった正義感で動いているらしい。


多分エルフがどんな目にあったとか、知らないんだろう。

王様や周りの人間の言うことを疑いもせず鵜呑みにしている。


ま、実際にアウレネに殺されかけたってのも大きいのだろうな。


俺はシルフ婆さんから聞いた、エルフ族が受けた迫害の歴史を書いてやった。


3人はそれを読んで、驚いた顔をした。

特に乱暴な少年は、頭を抱えている。



「嘘だろ……俺は、エルフが悪い奴だって思ってたから、始末しようと……」


「……僕らが聞いた情報には、人間にとって都合の悪いことは含まれてなかった。

そういうことか」


「そりゃエルフの反応も当然よね。

これって人間の自業自得じゃないの?」


『おいおい、今度は俺の情報を鵜呑みにするつもりか?』と書く。


「何?! てめぇ嘘をついたってのか?!」


『今の情報は、あくまで俺が聞いた情報。

本当である保証もない。

もちろん嘘かどうかも分からない』と書く。


「……何が真実かは、自分の目で確かめろ、ってことか」



やっと分かってくれたか。


そうだ。

考えることを放棄しちゃ駄目だ。

与えられた情報をきちんと吟味しなければ、悪い大人に操られてしまうぞ。


勇者と言われた少年少女を、大人達が悪用しようとしていた可能性がある。

純粋な少年少女に、王国は偏った考えを植え付けようとしていた。


まったく、困ったものだな。


俺はイノシシもどきの肉を取り出す。

倉庫にアウレネが採った木の実もあるから、それも取り出す。


火を起こし、焼き粘土製ホットプレートで肉と木の実をあぶる。



「おい、俺達にも分けてくれ」



先ほど荒っぽい言葉を発していた少年の態度は、少し柔らかくなったようだ。



『あんたらに食わせるつもりで作っているんだ』と書く。



俺達は遅い夕食を食べることにした。



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