ピリオドの向こうは転生級


 次に気付いた時には白い靄が周囲を埋め尽くすぼんやりとした世界で、自分が今どんな状態なのかよく分からない感じがした。


『お目覚めでしょうか。若き不幸な子……。』


 意識の覚醒と共に投げかけられた声に驚きながら周囲を見渡すと少し離れた所からこちらに向かってスポットライトに照らされた人影?が動いている。


『良かった。不幸な子よ。ここは魂の裁定を行う神聖なる場所。女神◼️◼️◼️◼️◼️の名において汝、現世の名前と最期の瞬間を白状する事を許します。』


 ゆっくりと近づきながら話しかけてくる自称女神の名前が理解不可能な言語で聞き取れなかったがとりあえず名乗って最期の瞬間?を言えと言われているらしい。最期の瞬間……って事はもしかして。


「えっと……名前は海老沢草太エビサワソウタで、最期の瞬間は……か、カジキマグロに心臓を貫かれて……。」


『???』


「いや、だから、通学中に曲がり角でカジキマグロにぶつかって刺さったのが……」


『……不幸な子よ。汝の学校は海を渡るのか?』


「いえ、街中です。海なんて年に1回位しか見ませんよ。」


『???』


 漸く全身が見えるようになった自称女神は、僕の説明を受けて目を点にして首を傾げていた。


『何故、そんな所にカジキマグロが在ったのだ?』


「え、そりゃカジキマグロがいた理由って言えば……え?何で???」


『いえ、妾に書かれても……。』


 困惑した表情を浮かべながら質問を質問で返された女神が胸元まで伸びた髪を弄りつつどうしようかわからないとばかりに耳に手を当てて連絡を取り合ってる。


『ーーもしもし……ええ、はい。あの、よく分からない事を……。病気?いや、魂に病なんて……あっ、あぁ……成る程。』


 やがて会話を終えた女神は何か冷めたと言うか汚物を見るような眼差しでこちらを見ながら再び話し始める。


『迷えるいつまでも少年の心を持ちつつ手を翳せば魔法や異能が使えると思い込んでる痛い子ーー「待て待て待て!!!!!!」


 思わず女神の言葉を遮りながら飛び起きる。こいつ今厨二病判定したよな。しかも


「カジキマグロに刺さって死ぬ事のどこに厨二要素あるんだよ!!それならもっとカッコいい死に方選ぶわ!!ダサすぎるだろ街中でカジキマグロに刺さって死亡って!!!いや一周回って有り得なさすぎてカッコいいのか?!」


『かなりダサい。』


「だるぉぉぉぉぉぉお?!なんなら死んだ瞬間リプレイで見てみろよ!!女神って言うならできるだろそれくらい!!」


『確かに可能だが、汝は辛くないのか?』


「こんな台詞このタイミングでは絶対使いたくなかったけど信じてもらえない方が辛いよ!!!」


 僕の返事を聴くとやや溜め息を吐きながら指を鳴らすと何もないところから水晶が現れる。


『ならば仕方ない。汝の死が訪れる瞬間を共に見ようではないか。』


 女神の言葉に頷くと同意と取ったのか水晶に手を翳すと、ほんのりと光を放ち始めた水晶の中に必死に走ってる僕が映り込む。この道と咥えている食パンを見るに先程のシーンである事は間違いなかった。


「そうそう。こんな感じに走ってて、この後曲がるところが問題のシーンなんだよ。」


『ふむ。では問題のシーンまで……3.2.1……!』


 女神のカウントダウンに合わせて僕が曲がり角を曲がる。そしてその先に居たのは……


「『カジキマグロ』」


 とても立派な吻で僕の心臓を貫いたカジキマグロだった。ビチビチと跳ねるわけでも、誰かの手で持たれてるわけでもなく、ただひたすらに死んだ魚の目(当たり前だが)をしたカジキマグロが浮いたままそこに居た。


『……なんで?』


「僕に聞かれてもむしろ困るんだけど。」


『しかも浮いてる。』


「それも気にならんだけど。と言うか普通なら刺さらないと思うんだけど。これ。」


『物理法則と生態系を無視したカジキマグロによる死……まさか事実とは。』


 何度も目をパチクリとさせながら困惑している女神はその後もブツブツと何かを呟きながら色んな角度で刺さった瞬間を見直しながら首を捻っていた。

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