転生先が火力特化種族なのに肉壁スキルしか覚えれないんですが。

米堂羽夜

偶然の出会いは殺人級

 RPG系のゲーマーにとってファンタジーの世界と言うのはある種夢の様な世界だったりして、荒廃した大地で戦い、或いは未知のダンジョンを仲間と共に攻略、或いは様々な種族と交流して強大な敵を倒すと言った男の子(全てでは無いが)の憧れの的だったりする。特に近年、RPGのオンライン化が進んでいる影響で所謂『勇者』として崇められる存在(要するに自キャラ)のキャラクリエイトが可能になり、今までは人間vs魔族の構図が殆どだった界隈が選択種族によっては魔族vs神やエルフvs地底人、はたまた全世界の種族vs異界からの侵略者みたいなスケールが違う物語が多く生まれ始め、生まれ変わったら別の種族になりたいなんて思い始めるゲーマーも増えていると思う。


 かく言う僕もそんな1人だし、こんな平和過ぎて毎日を浪費していくだけの人生に何の楽しみも持てないし、刺激的な毎日を送れるのであれば今すぐにでも転生したい。と、夜中にオンラインゲームをしながら思う程には高校生ながら将来について諦めている。


「……おし、それじゃ明日も学校だからそろそろ。乙ノシ〜」


 日課であるレベリング周回とボス周回で今日の疲労度を使い切った僕は、VCで通話しながら一緒にプレイしていたギルドメンバーに挨拶するとゲームからログアウトして睡眠を摂る。そして朝起きれば学校を何事も無く過ごして返って来てゲームしての繰り返し。せめてもう少し刺激のある毎日になれば楽しいのにな……なんて思いつつ目を閉じた僕は、やがていびきをかいて意識を手放した。



「……ハァッ……ハァ……ヤベェ、寝すぎたッ!!!!!!」


 翌朝。盛大に寝坊をかました僕は慌てながら制服に着替えて鞄を持ち、朝食として出されていた食パンを齧りながら玄関を出た。両親は共働きで朝早い為起こしてくれないのもあり、割と常習犯ではあるのだが……このままだと留年がかかってくるのでとりあえず全力で走る。猛ダッシュする。救いなのは高校までの距離が近い事だ。このまま走ればギリ間に合うコースに入ってる。いけるいける。


 そのまま若さ全開で通学路を疾走しつつ、最終コーナー……もとい最後の曲がり角が見えてきた。ここを曲がればもう目の前が高校である。記録は…現在時刻8:40。45分までに教室に居なきゃいけないのだがここまでの所ではベストタイムを叩き出している。これなら今日は遅刻にはならないだろう。……だが油断は出来ない。最後の曲がり角。インド人の営むカレー屋を右にしながら最短ルートで曲がる。この感じは波に乗ってる。いい波乗ってる。キタコレ。なんなら余りにも爽快すぎて周りがスローモーションに見えてきてる。世界新出るんじゃ無いのかってレベル。いやー、なんか余りの余裕っぷりに饒舌になってるけどフラグとか立ってないよね?いやまぁ立ってても今の僕なら大抵のものは折れる自信ありますけど?的な。……あれ?そんな話をしてたら曲がり角から何やら影が…あ、まずい。これあれだ。『やっばーい、遅刻遅刻〜!!』って言いながら食パン咥えて走ってたらぶつかって恋に落ちる少女漫画特有のアレだ。僕男だけど。まぁでも刺激が欲しかったからリア充フラグも大事かも……なんて!!


 ならばああ。甘んじて受け止めよう。新たな刺激ある毎日の為に。カモン美少女。華麗な感じで曲がり角で衝突しようではないか。


 スローモーションになりながら僕は最後の一歩を踏み出す。その先の新たな刺激の、相手の顔を見るために。


そして……


「かっ……

















カジキナンデェェェェェッ!?!?!?!?」



 僕は偶然にも曲がり角でカジキマグロと見事に接触し、心臓を鋭利なふん(鼻先から伸びてるあの嘴骨)が貫いていた。刺激(物理)を受けた瞬間だった。



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